1909A志乃【コウ】
街を濡らした雨雲がのろのろと空を這って、日光に居場所を明け渡そうとしている。
ビルの屋上に据え付けられたクレーンから枝分かれするように、鮮やかな虹が見えた。背の高いことを誇るようにどっしり立っているマンションの、はるか頭上を飛び越えて天に伸びる虹は、妙に存在感が強い。このまま夜まで中空に輝いているのではないかと思うほど、しっかりとそこにある。
雨曇りに慣れた目には眩しくて、ふっと目をそらした。と、明瞭な虹の背中に沿う影のような、薄くにじんだもう一本の虹が目に入る。
主虹と違って、いまにも掠れて消し飛んでしまいそうな、背中合わせの副虹。ともすれば、名残りのように空を覆う薄雲のほうが鮮やかだ。
ひたひたに湿って陰気な街から見上げるには、この対比はあまりにも鋭利すぎる。
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