1902D志乃【アーティフィシャル・ミスティック】
ブルーホール、といったか。
洞穴や鍾乳洞が水底に沈んで、そこだけが深い青色に見えるという、自然の景観。
コンクリート製のそれを、見つけた。
美しい水景というのは、不信神者の心にも尊く感じられるものだ。
透明度の高い川で、直接光に照らされた部分は、大気と水との境も判然としないほど。川底の砂や礫を隠すこともなく、水面に顔を出した水草の緑、苔に覆われた煉瓦の川縁で伸びたシダと草の葉が広げる波紋でようやっと水の深さを知る。
件のブルーホールは、まれに流れてくる木の葉を名残惜し気に引き留める。水面が波打てばあっさりと流れ者を見送っていた。すとんとまっすぐに川底を抜いて淡く影を落とすほどの深さだ。日の光に負けていた周囲の景色が、この穴の影に憩うように水鏡の中を泳いでいる。
幾重もの木の葉を通した木漏れ日、枝から垂れた蔦、映り込む緑の看板。コンクリートに生えて揺蕩う水苔の上に、透明な逆さ映しで揺れる。
天然のブルーホールと違って、穴の底ははっきりと見えていた。白砂と、錆や水苔でどこか歪な肌をさらす、おそらく取水用の金具がいくつか。
揺らぎの中を水底まで通った光が、白砂を撫でる。透明な蒼紺の影は、人を惹きつけるくせ、侵入を許さない神域めいていた。
倒壊した神殿のジオラマのようだと、不意にそう思った。
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