2008D志乃【残光】

 この国に、地平線、なんてものを拝めるほど広く平らな土地はほとんどない。太陽が沈むのは町と山並みの向こうだ。高空にかかる巻層雲の輝くスクリーンに、山肌からちぎれて浮いたような積雲が小さく影を作っている。
 氷が解けきったアイスティーのような空気に、影絵の街並み。影絵の隙間から滲み出す闇が喉元まで迫って、さっきまで降り注いでいた光が手の届かない高さにしか射さないことを知る。
 夜に沈むのだ、と理解するよりも少しだけ早く、残光は目裏に尾を引いてすっかり隠れてしまった。

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