1911C志乃【水鏡】
鬱蒼と茂る木々のみならず、登ってきたここは山の影に入っているようだ。まだ日は高いが、空気がひやりと肌に冷たい。
湿った土のにおいと、水気を含んだ樹皮の香りが静かに漂う。
細い丸太を接いだような柵の外は、うっすらと草の生えた崖だ。地盤も岩ではないのだろう、柔らかな土に覆われて稜線は滑らかだが、のぞきこめばかなり急な傾斜がついている。
青い瓦屋根、向かいの白いコンクリート造、崖の下は民家が並び、山の影を脱するほど遠くなれば緑の田が広がっていた。目を凝らせば、まばらな葉桜の並木が見える。
並木の向こうに見える湖沼は、強く日差しを照り返して真白に染まっていた。日陰に慣れた目を木立の隙間からこれでもかと焼き刺して、大きな水鏡が輝く。
ちかちかと瞬く瞼の裏に、目を閉じても眩しかった。
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