2004D志乃【不撓】
樹皮伝いに滴り落ちる陽ざしを浴びた。
川の両岸は木々が茂り、日が高くなければこの谷底に日の光は入らない。しんと湿った空気の中、毛羽立つような杉の輪郭さえしっとりと輝いている様を見上げると、目を凝らせば樹仙でも見えそうな気になる。
苔の脚絆を巻いた杉の足元は、どこか地につかず浮いているようだ。
ここでは、水は天から注ぐ恵みではなく、下からこみ上げて足元を浚っていく災いなのだろう。
芽の時分に流されず、年輪を重ね、地滑りすら押しとどめるほど地中深くへ根を差し。噛んだ土すら下流へ逃げて行ってもなお、ただ上へとまっすぐ伸びて、そっと陽ざしを伝わせる。
苛烈に香って花弁を輝かせる花を思えば、はるかに静かな存在だ。無言のうちに存在を主張する寡黙な神仙の気配に、思わず頭を垂れた。
水に冷えた緑の匂いは、寂しくなるほど清い。
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