1811A志乃【薔薇小道】

 踵が鳴る。不規則な形、しかし隣り合う石とかみ合うように配置された自然石のタイルは、微細な塵を隙間に残してはいるがよく掃き清められていた。
 小道の両脇は低い垣で仕切られ、垣の中にはとりどりの薔薇が傾きかけた日を浴びて、静かに佇んでいる。ちょうど顔の高さに揺れる白薔薇は、私と目線を合わせない。微かに上向いた様子は、背の高い殿方を見上げているような風情だ。
 人待ち顔の白薔薇を過ぎ、小道の角にはベンチが一つ。雨風にさらされ鈍く緑がかった座面や背もたれと、つやの抜けた青白鋳物の肘置きや脚が、ひんやりとした日陰でやはり人待ち顔をしている。
 ハンカチを敷いて座るように促してくれる紳士でもいればベンチも満足だったろうが、私は一人でそこへ腰かけた。日に照らされた道の先と、道を囲む薔薇を眺める。時折風に揺れ踊り、花蜂を誘うさまは楽しげだ。
 囁くような葉擦れの音に振り返れば、ベンチに腰掛けた私の横顔をのぞき込むように、垣から乗り出す大輪がみっつ、よっつ。柔らかなサーモンピンクのグラデーションが、花園から動けぬこの身の無聊を慰めろ、とでも言うように揺れていた。

 話好きの貴婦人を相手に、語らうことしばし。
 傾きかけの日はすっかり山の向こうへ落ちようとしていて、秋の夕に風は冷たい。
 秋薔薇へ別れを告げ、再び石畳に踵を鳴らす。秋薔薇にした話を、春薔薇はきっと覚えていないだろう。

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