2009C志乃【仔猫の古巣】

 教科書とノートを開けば、それだけであふれんばかり。一人用の小さな机と、その日の教科を詰めればいっぱいになる引き出し。右横のフックに丸々と肥えたかばんをかけて、机の上のみならず教室全体がぎゅうと狭かった。
 昨日までの話だ。
 机の落書きはすっかり消して、引き出しの奥に詰まっていたプリントも持ち帰らされたし、置きっぱなしにしていた荷物も全部片づけた。
 私たちがいた痕跡は、手すさびに剥がした椅子背もたれのシール痕くらい。
 それから、掃除で机をぶつけた壁紙の擦れ痕と、文化祭の準備をしていてうっかり差し金でひっかいた教卓の白い痕と……意外と残っているな。まあ仔猫の群れが過ごしていたと思えば、爪とぎ痕などかわいいものだろう、うん。
 まるで人が座ったことなどありませんとばかりの顔をする、まっすぐ並んだ机と椅子。その傍らにぽつりと落ちていた、砂埃で灰色に変色した輪ゴムを拾う。昨日、年甲斐もなく輪ゴム鉄砲で遊んだのだ。
 ゴミ拾いなんていい子の仕業ではない。
 これは、戦利品なのだ。この学校で三年間を過ごした、私の。

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