2110A志乃【秋香】

 固い緑の葉の影に、つまみ簪のように寄せ集まった橙の小花。吹けば散り散りに落ちていきそうな脆い様子だが、これを見つけたのは花姿からは想像もつかないほどに強い香りが鼻孔をくすぐったからだ。
 そよ、とかすかな風に頬を撫でられ、冷えてきた夕風に混じる甘いにおいに、もうそんな季節かと足を止める。垣として道に並ぶ金木犀は、さほど多くの花をつけてはいないのに、よく香った。
 雨でも降れば足元を橙に染めて、香りも洗い流されてしまうだろう。散った花を見て金木犀の季節と気づくことも多々、散る前に気が付いたのだから、しばらくここにいて香りを楽しんでもいい

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