1903C志乃【蒐集】

 きら、と視界の隅に何かが光った。
 視線を向ければ、色とりどりの蝶が、箱の中で時を止められている。箱一つには、一匹を囲うように、外を向いて円形に並ぶ同種の蝶。同じ大きさの箱がいくつも並んで、まるで壁掛けの絵だ。
 光ったのは、蝶の翅だったらしい。 貝の裏側のように、光の向きで色合いが変わるらしい種だ。淡い水色、薄紫。その隣で、深い青の翅がやはり箱に並んでいる。目の覚めるような明るい青から、夜の海のように深い青まで、こちらも光の加減で違って見える。
 小指ほどの大きさの体から、手のひらいっぱいの大きさに広がる翅。
 不釣り合いにも見えるそれが、ひらひらと風にあおられて飛んでいく様を想像した。花から花へ、どこへ行くにも少しだって風が吹けばふらふらと流されてしまうだろう。
 ――瞬き一つ。目の前にあるのは展示用の箱と、動くことのない蝶の骸。
 花も風もない。一様にただ翅を広げて、蝶はそこに在るだけだ。
 閉じた室内、あるはずもないかすかな羽搏きにも似た風を耳元に感じ、私は踵を返して視界から蝶たちを追い出した。

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