2012D志乃【雲の宝珠】

 駅舎の屋根に立つ。発車を告げる笛に夜気が震え、眩むように明るい車窓が屋根の端から順繰りに闇を刺して出ていく。
 光る縫い目はあっという間に尾を引いて消え、煌々と足元にわだかまる駅舎の灯りのほかには、星をかき消す月と、月にも霞まない遠い街灯ばかりになった。
 横合いから流れてきた雲の手のひらに腰掛ける月は、境の判然としない薄虹をまとって空を見上げている。

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