2110B志乃【帰路】
石畳にブーツを打ち付けながら歩く。山から霧が降りてきて、肺を水気で満たそうとしていた。
整えられた材木で作られていた街の柵とは違い、筋交いにグネグネといびつな枝をそのまま渡して作られた敷地の境は、簡単に通り抜けられる隙間がいくらでもあるのに、人を拒む威容ばかりははるかに強い。見慣れたはずのこれに威圧感を覚える程度には、僕は街に馴染んでいたらしかった。
夕の冷えた風が霧を揺らし、細かな水の帳の奥に、白と茶で積み上げられた家が見える。角張った細い煙突、藁を葺いた屋根、くすんだ漆喰。
いずれ帰ろうと思っていたが今ではなかったはずの、僕の生家がだんまりを決め込んで立っていた。
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