1909C志乃【夕を描く】
針のようなペンで描いた針金細工の鉄塔と、細く細く尖らせた鉛筆で描いた鉄塔を結ぶ線。近くのものは濃く、遠くへ行けばインクでなく鉛筆で描いたのに指を押し付けてぼやかして。
画用紙の上端から、淡い群青を溶いた水を吸わせる。
下端から、黄と赤橙。端のほうの紙が絵具を濾して、群青と橙がぶつかるあたりはほとんど水だけが染みた淡さで混ざりあった。
満足のため息で乾いた紙を揺らして、今度は灰の粉絵具。砂絵のように指で勢いをつけて散らして、それから粉の左端を吹いてぼかす。仕上げに白の粉絵の具を指でこすり、吐息で舞い上がったような跳ね返りを描く。定着材をつけて、粉絵具を留めた。
白い建物も、夕に暗く沈んだ色でなじませる。
沈み込むような青に夜闇の黒紫を混ぜて、水を多めに含ませて、でこぼこの地平線は家や木がそれとなくわかるような不規則さで。地平線を描き終われば、その下はむらのない夜だ。下の色が透けない濃さで、しかしかすれないように、筆を一定に動かして塗りつぶしていく。一通り塗ったらまた乾かして、道路の白線を重ね塗りした。
最後に一つ、紙の中央下寄りを針で突く。
画面の後ろから穴を通して、地上の一番星が光った。
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