2106C志乃【お宿】

 曇天を吸っては吐いて、雲が散乱させた光を胸に取り込む。湿り気が体を重くするが、背負った荷物よりはずっと軽い。
 ざしゃ、と音を立てて荷物を背負い直し、玉砂利に飛び石の足元をピョンピョン跳んだ。予約の宿は山の中。端の崩れたアスファルトを辿って山登りをした足が、着地の衝撃に文句を言いたげにガクつく。もう少しで休ませてやれるので、あとちょっとだけ頑張ってほしい。
 二階建ての宿の屋根、開いた障子から見える和紙を透かした灯。ぼやぼやとした白い曇りの中に、赤々と燃える紅葉を透かしてどっしりと構えた宿が、私を迎えてくれる。

ご支援を頂けましたら、よりいっそう頑張ります!