1812A志乃【誰がために】

 風に吹かれて、枯葉がアスファルトを擦っていく。駆け比べをするように一斉に走り去る乾いた賑わいを見送り、彼らが走り出した始点に目を移した。
 葉を刈り散らされたように、ほとんど枝と実だけになったトマトが二、三株ぽつねんと立っている。物好きの誰ぞがこんな排ガスまみれの道路端へ苗を植えたときから、ずっと見てきた。暑い時期には加減を知らぬ豪雨に根元を洗われ、かと思えば炎暑に熱を蓄えたアスファルトで四六時中炙られ、足があるなら一日だってこんなところにとどまりたくはないだろう土地だ。
 トマトに足はないので逃げられなかっただけなのかもしれない。だが、それにしては大層立派にたくさんの実をつけて、彼らはそこに立っている。つやつやの赤、目の覚めるような黄、とろけそうに熟れた橙。不思議なことに一株でとりどりの色の実をつけて、連なった実の重さで枝先をしだれさせるのは、いったい誰のためだろう。
 もはや太陽は力を落とし、ぼうっと日向に立ち尽くしたところで暑くはならない。風は水気を失い、頬の熱をかすめ取ってさざめくように冬を呼んでいる。
 収穫されることもなく、されど朽ちることもなく。
 ただ鈴なりに実をつけて、乾き萎びて落ちるのを待つにしては、彼らはあまりに鮮やかだった。

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