2012B志乃【メイクを直してあげたいんだが】

 カモメを、こんなに間近でじっくり見たのは初めてだ。
 白と薄いグレーの羽に、赤くて細いくちばしと足。ご機嫌斜めの曇った寒空の下ではまぶしい色をした鳥。ユリカモメというらしいそれは、人馴れしているのか、さっきから距離が近い。頭のすぐ上を飛んで行ったりする。人から餌でも貰っているのかもしれなかった。
 とはいえ、こんな至近距離に寄っても逃げていかないのは、野鳥としてどうなんだろう。彼だか彼女だか知らないが、桟橋の柵に留まった鳥にあと一歩寄って手を伸ばしたら、こう、両手で捕まえられそうだ。ちょっと勢い余ったアイメイクみたいな目元の模様まではっきり見える。
 そろり、デッキの板を静かに踏む。足音を潜めたって今更、完全に視界に入っているけど、そこは気分で。
 捕まえないから、もう一歩近寄ってもいいだろうか。

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