2102D志乃【ミッション】
隠れる場所がないな、と言うと彼女はくすくす笑った。
公園デートをしに来たのであって、かくれんぼをしに来たわけではないのは承知している。
大きなタイルの階段に、詰草の花が白く霞んだ緑の絨毯。人の背丈の三倍ほどに水を噴き上げる立派な噴水が、公園の中心で子を引きつれるようにして日差しに輝いている。赤いレンガ敷きの広場とベンチ。サルビアだろうか、鮮烈な赤の花が噴水の奥で列をなし、何かを描いていた。
西洋庭園の常できっちりと計算され整えつくされた広い空間に、口の中が乾いていくのを感じる。逃げるならば庭園の壁になっている密な木立の中だろうか、それとも噴水の向こうに見えるコンクリート階段の先か。噴水の音が邪魔で、人の気配を探れない。
彼女とつないだ手に手汗がにじむ。気持ち悪いだろうと手を放そうとしたら、ぎゅっと握られた。
こんな真昼間から何も来たりしない。
言われて見ればその通りと思えて、肩の力を抜いた。
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