2203D志乃【風化】

 薄く積もった土に、厚みのない苔が色を付けている。灰白色の石段は、木陰の涼やかさにひんやりと湿っていた。肌に馴染まない、しかし心地よい冷たさの空気が、服の裾から体を撫でて去っていく。
 うっすらと滲んでは風にさらわれていく汗に、普段ならしようとも思わない運動を楽しく感じ始めたころ、一つの石灯篭を見つけた。
 容を掘り出して積み上げたのだろう石灯篭は、何かの折にバラけて崩れたことがあるのかもしれない。上から落ちてきたものに削ぎ落されたような欠けや、落ちて地面にぶつかるならここだろうな、と思うような欠けが、あちこちに見受けられる。その欠けにも、薄くスプレーを吹いたような苔の緑が滲んでいた。
 よくよく見れば、削れて新しい面が見えているわけでもなく、浮いたように白い箇所も多い。まさか石灯篭が汗をかいて塩をふくわけもない。物理的な衝撃がなくとも、石は風にさらわれていくものだった。

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