1901B志乃【通い路】
暮れかけ、というにはもう暗すぎる。夜に征服された夕の名残が儚く木陰に漏れて、葉擦れの隙間から薄紫をちらつかせる。
塵一つなく清められた歪みのない石畳。木々から道を覆い隠すように居並ぶ朱塗りの鳥居、みっしりと隙のないその足元から石畳までを埋める礫。そういったものが、日輪の最後の息吹の中で、鳥居の内に仕掛けられた疎らで強い灯に照らされて浮き上がっている。
鳥居の外側から見える湾曲したその路は、わずかな隙間からぼんやりと灯りを漏らす。それは木立を照らすには鈍すぎて、鳥居の内から見る目を灼くような光とは程遠い。鳥居によって区切られた、路と木立はまるで異なる世界のようだ。
明るきに惹かれ、足を踏み出す。湾曲した路の先は見通せず、いずこへ続くものかも検討がつかないが、路であるからにはどこかへ辿りつくものだろうと考えた。
朱塗りの堵列、その領域へ踏み込めば、風が止んだ。木の葉のさざめきも下草の歌もない。
ただ息をする己の生きた音だけがうるさいと、心拍や息吹までもひそめるべく首元へ指を這わせた、直後。
――路の先から、音がした。石畳へ鈴を転げたような。それから、楽し気に招く幼子の声が。
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