2011B志乃【近い】

 近いな、と思った。
 窓から真っすぐ投げた視線が、遮られるまで。窓から見下ろした、建物の屋根や地面までが、近い。
 例えばここから身を投げ出しでもすれば、まず間違いなく助からない。見下ろす公園に見える人など箸の尻で踊れそうなくらい小さく見える。まぎれもない高所なのだが、あまり高いとは思わないのは、ここへ来るまでに経験した高層建築からの眺めのせいか。
 小学生のころにここへ来たときは、地面よりも空を近いと思ったはずだった。
 ふと、窓枠と高層ビルの隙間を縫って遠くへ視線を投げれば、空の青に紛れるように青白い尖塔が見える。今は天気が良くて高層雲しかないが、ふた月前に訪れて見上げた時は、展望台が雨雲の中に埋もれていたのだ。
 展望台へ上がれば、当然地上など雲に遮られて見えない。厚い雲の中にいたので天も見えなかったが、地上からも遠く引き離されていた。
 どこにも近くない、神聖っぽいのに天にも遠い尖塔よりは、役目を終えた電波塔からの眺めのほうが、いくらか気が落ち着く。

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shiou_kiyomi
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