2107C志乃【ガラス蓋の蒸籠】

 肺に詰まるような密度で充満した湿気は、日差しの苛烈さを和らげてはくれない。重く湿った空気は、手で触れれば押し返されそうなほどだ。憎らしいほど晴れた空から注がれる光と、アスファルトが照り返す熱を存分に吸収して、満遍なく全身を包みこむ。
 ちかちかとハレーションをおこす視界を瞼の裏にしまい、顔を伏せて足を踏み出した。後足を地面から引きはがすのに苦労しながら、一歩、一歩と進む。
 夏草が花を咲かせている。
 青々と茂った葉は鮮やかだが、長雨で水を吸った土に根を茹でられ、この陽気に葉茎を蒸され、どこか呆然としているようにも見えた。

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