無人店舗 【詩/現代詩】
店内に 入っていくと
見られているような気がする
むすうの視線に
(けさ泳いだ
プールの感触を
思い出す)
空気が動いて
商品の 位置が微妙に
変化する
遠浅の波音のように
右奥の棚にすすみ
新種のベーコンを手に取ると
指先がふるえた
カゴに入れると
睫毛が刺激された
床が揺れる
錯覚
(そのとき
一匹の蠅が迷い込み)
透き通った眼が
向こう側から見ている
不純物は瞬殺される
天井に 赤みがさして
室温がわずかに上昇する
呼吸が少し楽になる
(商品の呟きが
網膜に流れている)
プールの匂いがするので
左手を横に動かしてみる
泳ぐような恰好をする
億万の視線が
少し冷える
(網膜を流れる記号)
予定になかった
ポテトチップスを
カゴに入れると 気分が
軽くなる
視線があたたかくなる
(何が起きているか
わかっている それでも
身を任せる)
店舗から出た時には
最適化されている
何かを忘れているような
真っ青な空
パズルに穴が開いているみたいな
(大したことはない)
とても快適な世界だ
(次は48時間後に訪問する)