行財政改革(敬老行事関連において)ver.2

以下、行財政改革(敬老行事関連において)ver.1を改訂したものを掲載します。改訂したと言いつつ、ver.1で修正の必要性について言及したブロック経済圏構想に関する記述は放置しております。また、「共有地のジレンマ」においてエリノア・オストロムを引用しているのですが、この点についてだけは自分の引用が正しく機能しているのか自信がありません。
財政膨張についても、プロスペクト理論を用いて説明しておりますが、この投稿前に「financial crisis」「prospect theory」で検索をかけた際にいくつか英語の論文がひっかかってきたので、私のオリジナルの考えにはならないと思われます。

●従来の敬老行事概要→●業務改善案→●最後に の順で掲載しています。

内容的には行財政改革(敬老行事関連において)ver.1を高度化・専門化したものになるので、ver.1を先に読んでいただいた方がいいかもしれません。


●従来の敬老行事概要…主に以下①~④の4つに大別できる。

① 敬老行事補助金(予算規模1080万円) 
各地域の自治会(町内会に相当する団体)が主に9月の敬老月間中、地域の高齢者を敬老会に招待し、飲食や催し物を提供してお祝いする。その際、高齢者の健康増進等の福祉目的のために、80歳以上の敬老会出席者一人につき1,000円の補助金が市から敬老会に対して口座振替により交付される。対象者10,800人。敬老会の開催方法、開催場所等は自治会が任意に決定することができる。

課題
高齢化に伴い、毎年補助金の交付金額が増加し続けており、財政を圧迫している。


② 百寿表敬訪問
毎年、9月の第三月曜日の敬老の日前後に市長が2日間かけて、市内に住民票があり、かつ当該年度に100歳(百寿)となられる方のご自宅・入所先施設・病院を表敬訪問する。そして国から委託された祝賀状・銀杯、市からの祝賀状(→後述)・百寿祝い金3万円(→後述)を授与し、その後、対象者およびそのご家族と歓談して回る。対象者数27人。

課題
ⅰ)事前準備としての訪問ルートの確認、移動時間・歓談時間の設定に莫大な時間を費す。(約2ヶ月)
ⅱ)表敬訪問の当日も市長以外に職員5名(先発車2人、市長車運転手1人、司会者1人、担当職員1人)が随行するため、市が実施する他事業に影響を与えかねない。
ⅲ) 高齢化に伴い、対象者である当該年度に百歳になられる方の人数が年々増加しており、将来的には2日間で表敬訪問しきれなくなる可能性もある。


③ Ⅰ)百寿祝い金(予算規模81万円)
②で述べた百寿表敬訪問時に、百歳になられる対象者一人につき3万円が市長から手渡される。対象者27人(上記②と同様)。

課題
ⅰ)高齢化に伴う対象者増により、交付金額が年々増加し続けており、財政を圧迫している。
ⅱ) 授与された祝い金は対象者が亡くなるまで神棚に飾っていることが多く、また亡くなった後は相続人による遺産分割により、その2/3は市外に流出(推定)するため、経済波及効果は81万円×1/3=27万円程度。
Ⅱ)米寿祝い金(予算規模471万円)
市内に住民票があり、かつ当該年度に88歳(米寿)になられる方一人につき1万円が交付される。手続きとしては市担当職員から対象者に対して、個別に通知等の書類を郵送し、対象者から銀行の口座番号等、必要事項を記入した書類を返送していただく。それに基づき対象者の口座に1万円を振り込む。対象者471人。

課題
ⅰ)祝い金が口座に振り込まれていることに気付かず、放置されていることもしばしば。また、父母の帰省に同伴した孫へのお年玉等として市外に流出する場合もあり、市内への経済波及効果は471万円×1/3(推定)=157万円程度。ⅱ)高齢化に伴う対象者の増加により、財政を圧迫している。
ⅲ)口座振込の手続き自体が煩雑なうえ、対象者が記入した口座番号等に誤りがある場合、訂正のための確認に膨大な時間を要する(手続き通じて約2ヶ月)。
ⅳ)手続き未了の対象者には、書類提出を催告する電話等をするので、振り込め詐欺を助長する可能性がある。また、市担当職員が対象者に電話をかけた際に、振り込め詐欺と勘違いされて追及されることもしばしば。


④ Ⅰ)百寿祝賀状
②で述べた百寿表敬訪問時に市長から対象者に手渡される。

Ⅱ)米寿祝賀状
各自治会の敬老会開催前に、市担当職員が事前に額縁・祝賀状を市内業者に発注し、届いた額縁に市職員が祝賀状をはめ込んだ後、各自治会に車で配布して回る。
Ⅰ)Ⅱ)併せて予算規模 
祝賀状25万円(500円×(米寿471枚+百寿27枚))
額縁25万円(500円×(米寿471枚+百寿27枚))

課題
ⅰ)高齢化に伴う対象者の増加により、財政を圧迫している。
ⅱ)祝賀状を額縁にはめ込むのに職員3人がかりで2日かかる。
ⅲ)額縁に祝賀状をはめ込む際に、祝賀状のカバーとなるガラス板が重く、手を滑らせて割ってしまうことがあるため、きわめて危険である。また、祝賀状のはめ込み作業後、祝賀状を保管用の箱に別個封入して各自治会へ運搬するが、カバーのガラスが割れないように細心の注意を払わなければならないため、煩雑である。



●業務改善案(以下の見出し番号は「従来の敬老行事概要」の見出し番号に対応させた。また、改善案の主要部分には下線が引いてある。)

①敬老行事補助金
・従来は市外(近隣の温泉等)で敬老会を開催していた自治会に対しても、補  助金を交付していたが、その補助金を市内で敬老会を開催する自治会に対  してのみ交付することとする。
これにより、市外で敬老会を開催していた自治会に交付していた補助金1,000円×300人=30万円の予算削減が可能となる。仮にこれまで市外で敬老会を開催していた自治会が市内開催に移行した場合、予算削減は不可能となるが、代わりにプラス100万円の経済波及効果となる。予算削減額より経済波及効果が大きくなるのは、補助金は敬老会の開催費用の一部にすぎないため、また敬老会には60~70代も出席するためである。

・敬老会で使用する物資すべてを市内調達とする自治会に対してのみ補助金を交付することとする。
保健所に提出する「敬老会における飲食の提供方法についての報告」の資料作成において、敬老会で提供される弁当のうち、300人×1,000円(弁当価格は推定)分は市外から調達されていることが判明。すべての弁当を市内調達にするだけでプラス30万円の経済波及効果となる。

着想
上記2点は第二次世界大戦前のイギリス・ブロック経済圏構想より着想。ただし、ブロック経済圏がその後の経済的停滞の一因となったことから考えても、他の地方公共団体に追随されると意味をなさなくなる(この点については反対論もあるが、割愛する)。したがって、他の地方公共団体に模倣されないよう、内密に実施する必要があるが、現実的にはやや困難である。

・一律に補助金交付額を削減しつつ、各自治会から敬老行事に関する提案を募り、画期的な提案をした自治会に対する補助金のみ増額するという競争原理を導入する。ただし、誰が審査員となるか、審査に公平性があるのかといった点で紛糾する可能性もある。

着想…各種コンペより。

・市外の高齢者団体が三次市内の施設を敬老会で利用する場合は、割引する等により資本を引き入れる。

着想…上記ブロック経済圏構想の裏返し。

②百寿表敬訪問
ⅰ)訪問を中止し、市内の公共施設に対象者やそのご家族を招待し、一斉に祝賀状・祝い金を授与することとする。
これにより訪問ルートの確認・移動時間が不要となり、歓談時間も大幅に短縮することができる(心理学でいう社会的手抜き)。結果、担当職員の事務量を2週間は短縮可能。担当職員の給与を1万円と推定すると、1万円×14日=14万円の予算削減となる。
ⅱ)従来の制度では、先発車に職員が2人乗り、市長が表敬訪問する10分前に対象者宅に伺い、市長来訪をお知らせし、百寿祝い金授与の領収書を事前にいただき、その後、市長車の対象者宅到着時に市長車に同乗していた市担当職員に、先発車に積んでいた祝賀状・祝い金等を渡し、再び次の対象者宅に向かうということを繰り返していた。しかし、会場設営により移動が不要になると、先発車によるお知らせや祝賀状・祝い金等の運搬が不要となるので、先発車の職員2人は当日の表敬訪問に従事せずにすむ。
ⅲ)従来は全対象者訪問に2日間費していたが、公共施設で一斉開催すると半日ですむ。
ⅱ)ⅲ)より担当職員は市長含めて4人、かかる日数は0.5日、一人あたりの給与は1.5万円/日(市担当職員・市長車運転手・先行者の職員以外は管理職のため高く設定)と推定すると、4人×0.5日×1.5万円=3万円となる。従来が6人×2日×1.5万円=18万円だったため、15万円の予算削減となる。

着想…神戸市方式。

ⅰ)´市内の公共施設での祝賀状・祝い金授与に切り換えたうえ、さらに他の  表彰や壮行会(ex.国体に出場する市民の壮行会等)と同時開催あるいは連続して開催する。
これにより上記ⅰ)では他の表彰のための㋐準備㋑片付けおよび敬老行事の表彰のための㋒準備㋓片付けを各々単独でしなければならなかったが、連続開催あるいは同時開催とすると、㋑片付けと㋒準備を省略することができる。他の行事の表彰・壮行会の片付けには職員が3人がかりで3時間、敬老行事の表彰・祝い金の授与の準備に職員が3人がかりで5時間従事すると仮定すると、㋑および㋒については、3人×1日(3時間+5時間=8時間)の人件費コストがかかると推定される。職員の給与を1万円/日と仮定すると、同時開催あるいは連続開催することで、3万円の予算削減となる。

着想
高齢者福祉課が担当する全国健康福祉祭(ねんりんピック)出場者の壮行会を、教育委員会が担当する国民体育大会出場者の壮行会に組み込んで、同時開催にしていただいたことから着想。ただし、全国健康福祉祭の出場者が判明するまで国民体育大会出場者の壮行会の手続きを停止していただく等、教育委員会の担当職員には相応の負担が生ずる。また、「三次きんさい祭および三次市花火大会の日程変更にともなう経済波及効果の拡大案」も着想の一つである(下記にて補足)。

「三次きんさい祭および三次市花火大会の日程変更にともなう経済波              及効果の拡大案」
三次市では三次きんさい祭を7月に、三次市花火大会を8月に開催している。この両行事について連続する2日間で開催することとする。これにより、それまで㋐三次きんさい祭の準備→㋑開催→㋒三次きんさい祭の片付け→…→㋓三次市花火大会の準備→㋔開催→㋕三次市花火大会の片付け、という流れであったものが、㋐三次きんさい祭の準備→㋑三次きんさい祭の開催→㋔三次市花火大会の開催→㋕三次市花火大会の片付けという流れになり、㋒三次きんさい祭の片付けおよび㋓三次市花火大会の準備にかかるコストをほぼ省略することができる。これが上記②ⅰ)´の着想の一つである。
また、この両行事を2日間の連続開催とすることにより、
ⅰ)それまではほとんどが日帰りでの観光客であったものが、泊りがけでの観光客が増加する。これにより、市内の宿泊施設へ経済波及効果を生じさせることができる。
ⅱ)それまでは市外から来る観光客は地元(つまり市外)のスーパー等で食材を買い込んで三次市内で開催される両行事に参加していたが、日程変更により少なくとも2日目には、三次市内で食材を調達せざるをえなくなると考えられる。これにより、市内のスーパー等に経済波及効果を生じさせることができる。
ⅲ)それまで観光客は日帰りで行き帰りすることができる地域からしか来ていなかったが、宿泊型の行事とすることで、より広域からの観光客の流入を見込むことができ、両行事の大規模化を図ることができる。結果、市内への経済波及効果も拡大する。

着想
前職辞職後、神戸市の実家に戻っていた時、バス停か電車内かで徳島市で開催される阿波おどりの広告を目にしたことから。三次市きんさい祭や三次市花火大会には市が総力を挙げて取り組んでいるにもかかわらず市内およびその周辺市でしか盛り上がらないのに対し、徳島市が県外に広告を出し、全国から観光客を呼び込めているが、この違いは何かと考えた。この点、阿波おどりは規模が大きく、期間も4日にわたっていると確認して上記「三次きんさい祭および三次市花火大会の日程変更にともなう経済波及効果の拡大案」にいたる。ただし、三次きんさい祭と三次市花火大会それぞれの開催趣旨が共に日程変更を許さないものである場合、その実現は困難となる。

ⅳ)宿泊施設を利用した市外からの観光客に対して、市内の飲食店において使用することができる行事の期間限定割引券を配布する。これにより、行事の翌日以降の食料品まで三次市内で調達してもらえる。(日販アイ・ピー・エス刊行の「ランチパスポート」より着想)

ⅴ)三次市花火大会の開催される日中には、前日からの出店を継続するほか、美術館等の市内施設にセット割引(例えば市内すべての美術館に入館可能なチケットを1,000円で販売する)で入館可能とするバスツアーを行うなどして、時間を有効活用していただく。
③Ⅰ)百寿祝い金
ⅰ)3万円の手渡しから市の特産品の手渡しに切り換える。
これにより、対象者の人数が増加し財政が逼迫してきた場合、特産品のグレードを下げることで柔軟な対応が可能となる。
ⅱ)従来は神棚に飾っていることが多かったため、市内への経済波及効果は皆無(せいぜい対象者の死亡後に1/3程度)であったが、制度変更により市内に100%祝い金相当額が投下されるため、27人×3万円×2/3=54万円の経済波及効果となる。

 Ⅱ)米寿祝い金
ⅰ)従来の現金振込を廃止する。代わりに1万円相当の市の特産品を特集したカタログを作成し、その中から任意の特産品を対象者が選択し、市内業者に発送してもらうこととする。
これにより、それまで銀行口座で眠っていた、あるいは孫のお年玉に化けて市外に流出していた祝い金相当額が、すべて市内に投下されることとなる。471万円×2/3=314万円の経済波及効果となる。
ⅱ)対象者が増加して財政を逼迫してきた場合、特産品のグレードを下げることで柔軟な対応が可能となる。たとえば、特産品を一人当たり1万円相当から6,700円相当に変更すると、経済波及効果は157万円下がるが、予算削減額は157万円となる。
ⅲ)特産品の注文手続きは、ふるさと納税における返礼品の発送手続きを流用する。そのため、手続きはほぼNPOに委託する。また、作成するカタログの配布対象者は前述④Ⅱ)の米寿祝賀状の配布対象者と同一であるため、車で各自治会に祝賀状を配布する際にカタログも併せて配布することで口座振込用紙を別途対象者別に郵送する時間や経費を削減(=ゼロに)することができる。結果、職員の事務量2ヶ月、担当職員の給与1万円/日とすると、60万円の予算削減が可能。また、書類の郵送費用82円×471人≒38,500円の予算削減も可能。ただし、NPOへの委託費およびカタログ作成費が若干かかる(この点は辞職前に詰め切れなかったので、費用は不明)。
ⅳ)現金の口座振込でなくなるので、振り込め詐欺を助長する可能性はなくなる。また、振り込め詐欺と勘違いされて市担当職員が追及されることもなくなる。

・対象者が自分以外の任意の人(市外の人でもO.K.)宛に発送を依頼することができることとする。そうすることで、市の特産品のアピールにもなる。


着想
市職員新人研修における鬼丸昌也氏(特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス理事・創設者)の講演より。アフリカの紛争地域でゲリラに拉致された少年が武装させられた上、元々住んでいた地域に少年兵として送り込まれ、少年の親族や知人を虐殺するよう強要される。その後、少年兵を辞めることができても、虐殺の経歴から地元では出歩くことができなくなり、引きこもりになりがちとのこと。そこで、社会復帰支援プログラムとして、その地域でのみ使える地域限定通貨を元少年兵に提供することで、元少年兵の社会復帰を促す、という内容。
→ここから地域限定通貨を市内で発行するという発想に
→手続きが煩雑すぎるため断念
→祝い金を市内の特産品に代替する(1種類を想定)という発想に
→特産品の選定が困難なため断念(高齢者は咀嚼力や嚥下機能に難がある場合も多いため)
→ふるさと納税の返礼品の制度を流用し、特産品の送付先も任意とするという発想に(所属課長案)

④Ⅰ)百寿祝賀状
Ⅱ)米寿祝賀状
ⅰ)従来は祝賀状をはめ込むための額縁を業者に発注していたが、これを市内の小中学生に図工・技術の時間を利用して作成してもらい、祝賀状の額縁へのはめ込みまでしてもらうこととする。
これにより、額縁は材料費のみしかかからないため、1枚400円程度で作成することができ、5万円の予算削減が可能となる。また、市教育委員会の図工・技術に要する予算も削減が可能となる。仮に額縁の材料費を市教育委員会の負担とすると、高齢者福祉課の額縁用の500円/枚×約500枚=25万円の予算削減が可能となる。
この点、年少者の労働を禁止した労働基準法に抵触する可能性があるものの、地方公共団体における高齢化を実感するための社会科学習の側面や、地域高齢者への感謝を示すという情操教育の面を強調すれば、このような法的論点は回避しうると思われる。
ⅱ)従来は祝賀状の額縁へのはめ込み作業に職員3人、一人当たり給与1万円/日で2日を要していたが、上記ⅰ)によりすべて不要となるため、3人×1万円×2日=6万円の予算削減が可能となる。
ⅲ)従来は、祝賀状のカバーとしてガラス板を使用していたが、これをアクリル板または塩ビ板に切り換えることとする。
これにより、祝賀状を額縁にはめ込む際のけがのリスクを大幅に減らすことができる。価格は、アクリル板>ガラス板>塩ビ板であるが、額縁を手作りとすると、元々額縁にセットされているガラス板よりもアクリル板単体で大量一括購入したほうが廉価になる場合もある。塩ビ板の場合は言うまでもなくガラス板よりも廉価ですむ。割れる可能性も低いため、運搬時もガラス板ほどの注意は不要となる。
着想
当初は額縁を廃止し、収納用の筒に代替することで予算削減・はめ込み時間の削減、ケガのリスク低減を想定(国から委託された百寿祝賀状の形式より着想)。しかし、所属係長から「祝賀状授与の際には額縁に入っているほうが見栄えがよい」という主旨の指導をいただいたため、当該改善案については断念した。
また、当時は祝賀状のサイズを縮小し、それに併せて額縁のサイズも縮小することで予算削減するという腹案も有していたが、諸般の事情により、当該改善案についても断念した。さらには、百寿祝賀状については、国から授与される祝賀状と市から授与される祝賀状が重複しているため、市の祝賀状を廃止するという案もやはり諸般の事情により断念した。
→ その後、私の祖父が市民講座で焼き物制作の講師をしたことがあったため、額縁も手作りすることができないかと考えるようになり、当該改善案へと至る。

●最後に

・業務改善案を作成するにあたっては、主に予算削減・経済波及効果の拡  大・事務処理量の削減の3点を考慮した。

・問題として、今日、経済成長がきわめて限定的である中、ブロック経済圏 類似の制度を導入することで他の地方公共団体と限られたパイの奪い合いをすることに意味があるのかという点が挙げられる(この点、辞職後に出版された書籍ではあるが、水野和夫氏著「資本主義の終焉と歴史の危機」 (集英社新書)に、よりマクロでかつ詳細な記述がある)。
これに対しては、他の地方公共団体からパイを奪われる可能性がある以上、自らは奪わないという選択肢は存在しない(ゲーム理論における「囚人のジレンマ」の考えにもとづく)との暫定的な結論が出せると思われる。  実際、地方のパイは都市部に奪われ続けているというのが現状であり、その対策は必要と考えられる。

・仮に上記①の制度変更により、たとえば三次市内の温泉で敬老会を開催し  てもらえるようになっても、プライベートでそれまで市内の温泉に行っていた分を、敬老会で行くことになったから、代わりにプライベートでは市 外の温泉に行くことにする、というような事態になっては本末転倒であり、制度を変更した意味がなくなりかねない。(ティボー・モデルより着想。秋月謙吾著「社会科学と理論のモデル9 行政・地方自治」東京大学出版会)
また、上記③ⅰ)ⅱ)のような方法で市内の業者に経済波及効果を及ぼすことが可能であったとしても、それにより潤った市内の業者が、再び市内で経済波及効果を及ぼすべく消費活動を展開しなければ、資本が市外へ流出するだけになるということも想定される。
この点については、全市をあげて地産地消等、継続的に市内に現金を落とし続けるという意識づけがなければ、政策により一時的に市内に経済波及効果を及ぼすことができたとしても、その効果はきわめて限定される。また、地産地消の意識づけに効果が見られなければ、その意識を持つように制度的インセンティブを導入せざるをえないかもしれない。

・当該業務改善案については、すべての改善案について理論上は実現可能であると仮定しても、現実的には実現が比較的容易な改善案と実現が非常に 困難な改善案が併存する。実現が比較的容易な案としては業務改善案中の②および③が挙げられるのに対し、実現が非常に困難な案としては①が挙げられる。前者と後者の違いは、行政サービスの享受者が一回性を有する(継続性がない)か否かによる。
前者については、毎年度行政サービスの享受者が変わり、かつ一度当該サ      ービスを享受した市民はその後再び同一サービスの享受者とはならない(88歳や100歳に2年連続で同一人物がなるということは考えづらい)。その結果として、行動経済学で言われる現状維持バイアスは働かず、制度変更は比較的容易であると考えられる。
 これに対して、後者においては手続きに参画するのは各自治会の長あるいはその事務局であり、毎年度同一手続きをしている(=一回性を有さない)場合が多い。行政側の担当職員が異動等で交代した場合等には、ともすると当該行政サービスについて市担当職員より詳しい場合もある。そのため、仮に業務改善案が各自治会にとって事務作業の軽減につながる場合であっても、現状維持バイアスが働き、その制度変更はきわめて困難となりうる。

・業務改善案中④Ⅰ)Ⅱ)における「着想」で言及した「祝賀状授与の際には額縁に入っているほうが見栄えがよい」という指導は、最終意思決定権者 が誰かは不明ではあるものの、行動経済学でいうハロー効果を意識したものであると考える。実際、私は当該敬老行事関連の事務を担当する前年、  有料老人ホームに入居していた祖父の居室を訪問した際、祖父がうれしそうな顔でいそいそと平らな長方形の箱を持ってきて、「この前、わしん所にこがぁなもんを送ってきたんじゃが。」と言って中から取り出したのが米寿祝賀状であった。その後、祖父と祝賀状のことについて歓談していたが、その中でふと祖父が「この祝賀状に名前のある市長には今度の選挙で投票せにゃぁいけんのぅ。」と感慨深げに言ったのである。物事を理詰めで考えたがる祖父の発言とは思えず、これを聞いた瞬間は愕然としたが、  上記の最終意思決定権者がハロー効果を意図していたとするなら、その目的は十分達成したということになる。もっとも、祖父は額縁に入った祝賀状を飾っていたわけではなく、後生大事に保管用の箱から取り出してきたのである。飾っていなくともハロー効果を期待することができるのなら、額縁に代えて収納用の筒を導入することも視野に入れるべきではないかと考える。また、ハロー効果をさらに強化したいのなら、額縁にはガラスでなくアクリル板または塩ビ板を使用し、保管用の箱などには入れずに各自治会に配布すべきであると考える。

・制度変更の困難性については、将来的に財政破綻が起こりうるとする立場に立てば、共有地のジレンマ(コモンズの悲劇)による説明も可能であると考える。共有地のジレンマについては、経済学者のエリノア・オストロムが「ハンドブック 公共選択の展望 第Ⅰ巻」(多賀出版/関谷登・大岩雄二郎訳)において、これを克服するための諸条件について言及している。しかし、オストロムの主張する環境はきわめて制約条件(向かい合ったコミュニケーション・監視・制裁等の存在)が多く、市長選において激戦が展開され、その政治基盤が確固たるものではない地方公共団体においては期待することができない場合が多い(この点については、市長選において無投票であったとしても、一度監視・制裁等を導入した場合には次回の選挙において対抗馬をたてられるということも起こりうるので、一概に無投票当選ならば、政権基盤が安定しているとも言い切れない)。

・上記のとおり実現がきわめて困難な②および③のような改善案についても、その実現を容易にする方法は考えられる。たとえば敬老行事補助金の交付決定通知書および交付確定通知書において市債発行額および当該自治会が交付される補助金額を明記する、あるいは事務量の削減という趣旨からは外れるが、敬老行事補助金の交付を口座振替によらず、自治会と責任者に直接手渡しするといった方法によるとする。 (ダン・アリエリー著「予想どおりに不合理」「ずる」(ともに早川NF文庫/早川書房)より着想) ただし、前者については、SEC(米証券取引委員会)が企業のCEO(最高経営責任者)の給与の公開を義務づけたことにより、その後のCEOの給与が跳ね上がったことからも、各自治会への交付金額をすべて併記することは妥当ではないと考える。また、後者についても、広島県警において保管されていた詐欺事件の被害額8500万円が行方不明になったという事件から理解することもできるように、現金の管理には相応のコストを要すると考える。

・上記現状維持バイアスについては、本来行財政改革を率先してなすべき行政側にも存在する。一見すると制度の変更は行政の事務遂行上はコストでしかないとも考えられる。しかし、将来的に市の財政が破綻する可能性もあることを考慮すると、夕張市の現状に鑑みても変更による予算削減のメリットはきわめて大きいので、やはり現状維持バイアスが働きうる状況であると考える。実際、業務改善案③Ⅱ)ⅲ)において、課長決裁が下りていたにもかかわらずNPOへの委託費およびカタログ作成費を算出することができなかったのは、行政側の現状維持バイアスによるところが大きいと考える。

・敬老行事の大半は、国や県の指定事業ではなく、市の条例や要綱で規定されている任意事業であるため、いかようにも制度を変更することができる。在職中に作成した業務改善案においては、一部制度の全廃や予算の一律削減等についても言及していたが、本業務改善案においては、細かい数字を思い出すことができず、かつ面白みが無かったため言及しなかった。ただし、かつて財務省主導で導入されたゼロ・シーリングは予算膨張抑制策としては、国レベルでは失敗したが、地方公共団体レベルの、さらにはその中の一事業においては一考に値すると考える。この点、待鳥聡史著「財政再建と民主主義 アメリカ連邦議会の予算編成改革分析」(有斐閣)にも、米連邦予算における財政再建については、総額管理方式は向いておらず、個別プログラム管理方式が向いていると言及されているが、敬老行事補助金関連の事業にゼロ・シーリングを導入することは、一見すると総額管理方式のようであるが、実質的には個別プログラム管理方式に近い性質を有するからである。

・上記の通り、敬老行事の大半は法律学的にはいかようにも制度変更が可能であるが、現実的に変更するとなれば非常な困難が伴う。これは上記のように現状維持バイアスによる説明も可能であるが、やはり同じ行動経済学で用いられるプロスペクト理論による説明のほうがより状況を的確に捉えていると考える。プロスペクト理論とは意思決定理論の一つである。標準的な経済学では、(効用)×(客観的確率)により意思決定を行うものとして理論を組む(これを期待効用関数という)のに対し、プロスペクト理論による意思決定理論は価値関数と確率加重関数から成立する。ここで重要なのは価値関数であるので、確率加重関数については言及しない。価値関数とは、ヒトが持つ主観的な満足度(価値)を数学的に表現したものであり、損失と利得が同じ規模の場合、利得よりも損失の方をおよそ2〜2.5倍程度重く受け止める傾向を示すというものである。この理論を予算編成に適用すると、敬老行事関連の予算を増額した後、その増額分と同額の予算を減額しようとした場合、増額時よりおよそ2〜2.5倍重く受け止めることになる。これは行財政改革における重大な問題であると考える。
さらに、価値関数には参照点依存性がある。参照点とは、価値関数を計量する際の原点のことであるが、この原点である参照点がどこに置かれるかにより効用または損失の感じ方が変わってくる、というのが参照点依存性というものである。そして参照点は常に変動するという性質を有する。この理論をやはり予算編成に適用すると、敬老行事関連の補助金を一旦増額すると、その増額後の予算が参照点となるため、補助金の交付があることが通常の状態であると考えられ始める。よって、その後の予算減額はきわめて困難になると思われる。そもそも、これまで言及してきた補助金交付等の事業の多くは激しい市長選の末に、政権交代が起きた直後に導入されたものである。このことからも補助金交付等の制度が導入された趣旨は推して知るべしであるが、はたしてプロスペクト理論を考慮した上で導入したのかについては疑問を呈さざるをえないと考える。

・上記のとおり、私はいったん予算を増額すると、その膨張には歯止めがかからなくなると考える。そのため少なくとも将来的に予算の膨張が予想される制度については、当該制度の変更を予算膨張前になすべきであると考える。そして、国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、2040年代初頭まで高齢者人口は増加し続け、日本の社会保障費も少子高齢化に伴い増加の一途をたどると考えられている。かかる状況になったとき、日本は種々の難題を突き付けられることになるはずである。

駄文であるにもかかわらず、最後までご清覧くださいましてありがとうございました。

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