「平和で最強な編集部」づくり|心理的安全性とアウトプットの質について
こんにちは、こんばんは。
編集者・ライターをしている山越栞です。
このたび #リブセンスnote100本チャレンジ の一環として、編集部運営においての個人的な正義について書いてみようと思いました。
ちなみにリブセンスでは、転職ナビというサービスのマーケティングチームにてJOBSHILとJOBSHILBIZというウェブメディアの編集をさせてもらっています。SEO流入以外に、これからはソーシャル流入も獲得できるメディアへとシフトチェンジさせている真っ最中です。
今回は、編集部という小さな組織で「心理的安全性とアウトプットの質」を担保するために、理想的な編集長像について考えてみました。
編集部という組織
私の最初のキャリアは、新卒で入社した小さな制作会社からスタートしました。企業から委託され、雑誌やガイドブック、書籍など様々な紙媒体を作っている会社でした。
憧れだった業界で仕事をはじめた頃は感動の連続でしたが、中でもときめいたのが「編集部」という響き。
説明するまでもないかもしれませんが、一冊の書籍、あるいはウェブ媒体などを企画し、コンテンツとして世に送り出していく組織のことです。
私はこの「編集部」という組織がとても好きです。
会社の所属や雇用形態を問わず、「編集部」という言葉ひとつでチームとして動いていくギルド的な働き方は、少年漫画の登場人物になったみたいな気分になることも。
しかし、いわゆる「クリエイティブ」なこの世界は、噂に聞いていたように決して甘いものではありませんでした。
直接的でないにせよ、「この仕事舐めんな」とか「血反吐吐くほど働け」なんて雰囲気を感じる環境でもあります。
というか、「そういうもんだ」と思って新人時代はやってきました。色んな意味で怖い先輩もいたし、教わる立場でありながらも「なんでそんな言い方するんだろう?」と憤ったこともあります。
でも、すごい違和感もありました。
そもそもいいものを作ろうとする現場で、人間関係がギスギスしていたり、仕事がいやだなと思いながら作業しているのって違くない?と。
それが「下積み」なのだとしたら自分はやるけれど、もしも自分がいつか編集長になったら、「私もこうだったから」という思考停止な価値観で仲間をギスギスさせることだけはしたくないと思ってきました。
いまでもなお、素敵なアイデアや楽しい企画は、心理的安全性によって下支えされていると信じています。
だけど難しいのが、「安心」は「甘え」の元凶にもなりうるということ。
そこで、今の私が思う「平和で最強な編集部」をつくるために、編集長が気をつけたいことは以下です。
①赤入れ≠人間否定
②きちんとフロー化、ちゃんと共有
③チーム間での負の競争をなくす
④キャパオーバーと甘えの見極め
⑤感情に引っ張られない
⑥秘技「やっちゃいましょう」
編集やライティングは、作り手の心と密接に紐づく仕事です。
だからこそ、編集長の立場になった際は、メンバーの心理状態への配慮は絶対だと思っています。
これから書くことは、ありがたいことにここ1、2年で編集長案件が増えてきたイチ編集者の備忘録だと思って読んでいただけたら嬉しいです。
①赤入れ≠人間否定
編集・ライティングの仕事には、クオリティ担保のために「赤入れ」の作業が入ります。
そこで気をつけることは、赤入れは「直す」のではなく「より良くする」作業だと肝に銘じること。自分が書いた記事を他者に「赤入れ」前提で見られるのは、少なからず緊張する瞬間です。
私自身、原稿が真っ赤(修正だらけ)で戻ってきたときに、先輩編集者さんからもらったフィードバックで落ち込んだことは何度もあります。
もちろん、技術面でのブラッシュアップにつながるのならありがたいのですが、「なんでこんなこともできないの」系はちょっと厄介です。
「何を書いても自分は無能なんだ」という呪縛にとりつかれ、PCの前で固まったまま、気づけばポロポロ泣いていたこともありました。
書き手から書く気力を取り除いたら、もうなんにもなりません。
だから編集側に大事なのは、「記事の質を”より”よくするために、一緒に調整していく」というスタンスです。
記事の要修正箇所は、書き手の人間性と切り離して指摘すること。
その上で、明確な修正意図を示すのが優れた編集者(長)だと思います。
②きちんとフロー化、ちゃんと共有
上記のことを大前提として、心理的安全性と良質なアウトプットのカギを握るのは、「同じ地図を手にしている」状態にすること。
自分たちのメディアが何を目的として、そのためにどんなフローでやっていくのかを整備し、共通言語をもって進めていけるベースがあるからこそ、「遊び」のアイデアを安心して出していけるものです。
また、共通言語があれば、先に書いたような赤入れの段階でも、相手に修正意図を提示しやすくなるため、書き手がフィードバックされた際に自己否定に走ってしまうリスクを回避できます。
③仲間内での負の競争をなくす
切磋琢磨ならばむしろよいのですが、編集メンバー内で技能に関するマウントの取り合いが発生するのはあまり望ましくありません。
編集長はメンバーの評価者である前に、メディアの質を担保するのが役目。
全員にフラットであることが基本だとは思うのですが、それだとあまりにも人間らしくないので、各記事の制作に関しては、担当メンバーと一対一で話すことが大事だと思います。
めちゃ普通のことを言ってしまうのですが、「あの人はああらしい」みたいな悪い噂はフルシカトして、編集長としての自分の目に相手がどう映るかをちゃんと感じることが、平和の種になるはずです。
そういう意味でも、赤入れなどのクオリティチェックはコミュニケーションの機会になるので、よいと思ったところや、より素敵になりそうなところは積極的に伝えます。
また、みんなのいる場で個人への感謝や賞賛をする文化が根付くとなおよいので、これは自ら積極的に行うように心がけています。
④キャパオーバーと甘えの見極め
メディア運営ってドタバタしがちなので、メンバーに無茶をさせない仕組みを作るのも、編集長の役目だと思います。
そして自分自身も含め、ちょっと大変な局面では「これは甘えなのか、それともキャパオーバーなのか」を問うこと。
前者であれば自覚して具体的な解決策をつくればよいし、後者だったらリソースを分散させる覚悟をしなければなりません。
キャパオーバーが自覚できずに「これは甘えだ」と思い続け、結果として周囲に迷惑をかけた経験がある身から言わせてもらうと、編集長のようなマネジメント層が本人の代わりに気づいてあげるのも大事です。
というか、キャパオーバーor甘えが生じる前に、対面でもチャットでもよいので普段から一対一のコミュニケーションが取れているのが理想ですね…。
とはいえ、編集部内で心理的安全性が保たれていると、どうしても甘えがひょっこり顔を出してしまうこともあるはず。
そのときは否定的な感情よりも、本心から「あなたならできる」と伝えてモチベーションを上げてあげられるとかっこいいので、やっぱりその「あなた」を普段からきちんと見る意志を忘れないようにしたいです。
⑤感情に引っ張られない
リーダーがネガティブな感情に引っ張られると、チーム全体に負のオーラが漂うのは想像に難くありません。
ウェブメディアの編集部で例えるなら、流入の数値が大暴落したとか、他部署と揉めたとかKPIを達成できなかったとかいろいろなピンチも訪れると思うのですが……
しっかり凹みつつも、エモーショナルになりすぎないことが挽回のコツだと思っています。キャラで言うと、スラムダンクの安西先生みたいなイメージでしょうか。
そしてこれはメンバーがネガティブになっている場合も同じで、風格に「大丈夫」をまとうこと。マイナスな出来事に対する反応はニュートラルに、プラスな出来事に対する反応はアゲアゲに。
⑥秘技「やっちゃいましょう」
ここまでいろいろと「平和で最強な編集部」への配慮ができたとしたら、編集長はちょっと抜けてて、周りにダメ出しされるくらいがちょうどいいんじゃないかと思ってしまっています。笑
いいコンテンツができるときって、半ば勢いで面白がりながら企画して、作ってるときの熱量もそのまま維持されているパターンが多い気がしていて。
メンバーの力量を信頼しているからこそ、「いいですね!やっちゃいますか」とにやにやしながら言い放つのが、私が思う素敵な編集長です。
そして、結局のところ「やっちゃえ」が言えるのは、ある程度のことは自分が質を担保できる力量を持っているからこそ。
経験値とスキル、しなやかな精神力に裏付けされた「やっちゃえ」は、メンバーを安心させて、質のよいアウトプットにつながるんだと思います。
むすび
世の中がこのような状況になって、私の場合は全ての仕事がリモートになりました。誰もがこんな環境で働けるわけではないからこそ、本当にありがたいことです。
職業柄、今までだってやろうと思えばフルリモートで働くことはできたのですが、それでもやっぱり「会う」ことには大きな価値があると思っていました。
でも、今はそれが叶わないからこそ、心のやり取りを今まで以上に意識していきたいです。
よいコンテンツはよい人間関係から。
このスタンスを今後も変えずにやっていく所存です。