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本の山を登り、本の海を泳ぐ

文字どおり、本に埋もれている。

机の上に、スピーカーの上に、カウンターチェアの上に、絶妙なバランスで積み上がった本。ジェンガのように、素早く引き抜くことが上手くなった。

ベッドの上、枕のそばに散らばった本。本が占めるスペースの分だけ、私の足先はベッドからはみ出す。

いつでも手を伸ばせば届くところに本の山や本の海があって、小腹を満たすスナックを選ぶかのように、その時の気分にぴったりの本を探り出す。1章だけ読んでみたり、物足りなくなって3時間ぐらい読みふけったり。

1冊ずつ読み切る必要なんてなくて、食べたい時に食べたいものを食べたいだけ食べるように、読みたい時に読みたいものを読みたいだけ読めばいいや、と割り切るようになってからさらに読書にのめり込んだ。何十冊を併読しているのか、もはやわからない。

机の上に3〜4冊の本を並べて、1章ずつ順繰りに読んでいくという、三角食べならぬ「三角読み」もするようになった。丼ものより、おかずが少量だとしても定食の方がなんだかおなかが満たされるのに似て、三角読みの満足度は高い。変化による刺激があるので集中力も持続する。

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昔から読書は好きだったけれど、こんなに身を削るようにして本を読むのは久しぶりかもしれない。何がきっかけだったのかは忘れてしまったが、去年の秋頃から、貪るようにページをめくっている。

日に何度も見ていたTwitterのトレンド画面を開くのをやめた。再生に数百時間を費やしていたBTSやSEVENTEENの動画も完全に絶った。

時間は有限で、人生は短くて、何かを選ぶなら何かを捨てないといけない。最初は世の中の流れに置いていかれるんじゃないかと不安だったけれど、離れてみて初めて、私が見ていた「世の中」がいかにちっぽけなものだったかを知る。

本に狂う私を、頭上から冷めた目で見つめる自分もいる。「目的もなくあれこれ読み散らかして、片っ端から内容を忘れて、この時間にはなんの意味があるんだろう。この雑食動物は、一体なんなのだろうか」と。

確信はないけれど、私は、福岡伸一さんの言う「動的平衡」を思い出している。非物質的な「動的平衡」を感じている。食べものを摂取するとともに分子レベルで置き換わっていく私たちの身体は、1年前の身体とはまるで違うのに、変わらず私である。同様に、私の価値観や関心は、読書によって新たな知識を得るとともに移ろっていき、1年前とはまるで違うように思えるのに、変わらず私なのだ。

大量に食べた本がつくった、今この瞬間の身体を結構気に入っている。それだけで十分かもしれない。

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今は、歴史に対して、自分でも驚くほどの熱量が生まれている。美術史という切り口、日本近現代史という切り口、外交史という切り口……おそらく、なんでもいい。どんな歴史にまつわる本を前にしても、お腹が鳴ってしまう。ラーメンの食べ歩きのように、猛烈な食欲に突き動かされるまま、手当たり次第に本を開く。塩ラーメン、鶏白湯、家系ラーメン……

夏の長野の匂いとともに、ふと思い出す本がある。大学生2年生の頃、ほぼ小説しか読まなかった私が珍しく手に取った新書のタイトルは、『日本を変えた10大ゲーム機』だった。長野の祖父母の家で、畳んだ布団に頭を預けて読みふけった。あの本も広義では歴史書と言えるのかもしれない。ゲーム機の盛衰に、無性に興奮した。

つい最近は、半藤一利さんの『ソ連が満州に侵攻した夏』を読んだ。第二次世界大戦と言うと、日本の視点からは対米戦争のことが語られやすいように思う。私も対米戦争の本は何冊か読んでいたが、終戦の直前である1945年8月9日の、ソ連による満州侵攻についてはほとんど知らなかった。そもそもソ連のことも大して知らず、満州についての知識も乏しい。

かつて日本が占領していた場所について、よく知らないままでいるというのは恥ずかしいことだと反省した。その満州で、玉音放送の後も戦い続けていた日本兵がいたということも衝撃的だった。玉音放送とともにすべての戦闘が終わったようにイメージしていたが、現実はもっと過酷で悲惨だった。

歴史を繰り返さないためにも、歴史を知らないといけない。

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歴史を知ると、「今」という空間をふわふわと漂っていた心許ない自分が、どこまでも分厚い地面にようやく着地できたような、そんな気持ちになる。平面にも思えた世界が、突然立体感を増す。偶然か必然か、ありとあらゆるものが相互に結びついて「その先」を育んでいく、神経回路のような途方もない規模のつながりの中にいることを実感する。

見過ごしていた風景。身近にあったもの。歴史を知ることで、それらの価値に初めて気づくこともある。太古からの物語に囲まれた日々は刺激的で、眩しいぐらい色に満ちていて、そんな世界を作ってくれる本の中に、今日もずぶずぶと埋もれたい。

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