【コラム】長野の小さな動物園にいた白いタヌキの話
みなさんはホンドタヌキの「リュウ」を知っていますか?彼は長野県にある飯田市立動物園で暮らして「いた」真っ白いアルビノのタヌキです。
2024年8月16日(金)8時頃―担当飼育員さんが朝の作業をする為、獣舎に入った際にリュウが亡くなっているのを発見しました。
死因を探るための病理解剖を行った結果、胃の入り口と出口にそれぞれ、20㎜×40㎜程の悪性腫瘍(ガン)が見つかりました。問題の腫瘍からは出血も見られ、胃の中部に血が溜まっていたそうです。亡くなる数日前までは目立った体調の悪化はなく、食欲も旺盛だったそうです。
私がこのお知らせを知ったのは2024年8月24日(土)の午後―ちょうど東山動植物園で公開されたばかりのコモドオオトカゲ「タロウ」を見に行っていた時でした。突然の訃報にただただ驚き、悲しむことしかできませんでした。
次の日も休みだったので一日中家でテレビを見ながらパソコンで写真整理をしていましたが、時折リュウのことをぼーっと思い出していました。私にとって「リュウ」というタヌキはどこか特別な存在だったんだなあと感じました。
今回はそんな私とリュウの思い出をたくさんの写真と共に振り返ってみようと思います。完全に私感が入っていますが、ご了承ください。
・リュウとの思い出
私が「リュウ」に初めて出会ったのは2020年11月27日(金)でした。秋の季節の終わりごろ、少し肌寒くも野外で過ごすには気持ちの良い季節でした。
・「マルポコチャン」「ポコ」との関わり
モテモテのプレイボーイとしても有名な「リュウ」。同居する「マルポコチャン」や「ポコ」と仲良く寄り添って寝たり、毛繕いをしたりと仲睦まじい姿が見られました。
・論文に掲載された「リュウ」
実は過去に「リュウ」が論文に掲載されたことがあります。2021年に古賀章彦 霊長類研究所教授らの研究グループにより発表された「中央アルプスと伊勢で発見された白いタヌキの体色変異の原因を解明 -アルビノ遺伝子の哺乳類における広域拡散の初事例-」という論文です。この論文では中央アルプスと伊勢で発見された白いタヌキの体色変異の原因を、遺伝子解析により明らかにしました。中央アルプスで発見された白いタヌキは「リュウ」、伊勢で発見された白いタヌキは大内山動物園で飼育されている「ポン」(♂)です。
論文の内容を要約すると、『「リュウ」と「ポン」がアルビノであるのはどちらもメラニン色素の合成を司るチロシナーゼ遺伝子の変化が原因となっていることが判明した。』ということです。飯田と松阪は直線距離で170 kmほど離れているにも関わらず、その遺伝子が代々受け継がれて長距離を移動し、飯田と松阪に達したことになります。これは、アルビノ体色をもたらす遺伝子の、哺乳類での広域拡散の、初めての事例となるそうです。一般にアルビノの体色変異は、自然での生存に不利となります。(注1)それにもかかわらずタヌキで長期間に渡り維持されたのには、タヌキ特有の原因があるのかもしれません。
リュウは野生動物の遺伝学研究においてもとても貴重な存在だったのです。
・おわりに
「リュウ」の魅力、伝わったでしょうか?今更ですが、もっとたくさん会いに行ってあげられたら良かったなあと私は後悔しています。もっといろんな表情の、いろんな姿の「リュウ」が見たかったです。。。
少し気持ちが落ち着いたら飯田市立動物園に再訪しようと思っています。「リュウ」にはもう会えませんが、飯田市立動物園はたくさんの魅力がある動物園です。
最後に、私が気に入っている「リュウ」の写真をいくつか掲載して締めさせていただきます。会ったことのない読者のみなさまに、少しでも「リュウ」のことを知ってもらえますように。。。
【参考】
・タヌキのリュウについてお知らせ|飯田市立動物園
・中央アルプスと伊勢で発見された白いタヌキの体色変異の原因を解明―アルビノ遺伝子の哺乳類における広域拡散の初事例―, 2021, 京都大学