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【コラム:狂犬病ワクチンは必要か?】

日本が狂犬病の清浄国と認定されてから60年以上が経過した昨今、飼い犬に狂犬病ワクチンを打たない、打ちたくないと言う人が増えてきた。
そこで今回は、狂犬病ワクチンは本当に必要なのか?という話題について考えてみるぞ。


1.そもそも狂犬病って何?

そもそも狂犬病とは一体どのような病気なのか、
義務教育で取り上げられることもほとんど無いため、知らない人も多いだろう。
だが、その実態を知れば知るほど、
如何に危険な感染症であるかが理解できるはずだ。
噛み砕いて説明するので是非読んでみてほしい。

(1) 原因

狂犬病は、
ラブドウイルス科リッサウイルス属狂犬病ウイルス
によって引き起こされる人獣共通感染症である。

狂犬病ウイルスは、犬や人ばかりでなく
全ての哺乳類に感染し得る。

致死率はなんとほぼ100%。治療法は無い。
WHOによると、世界では年間約6万人もの人々が
狂犬病によって亡くなっているそうだ。

ちなみにウイルスは弾丸状の特徴的な見た目をしている。

ちなみに獣医学生諸君、
狂犬病ウイルスの電子顕微鏡写真は
国試に出るかもしれないので覚えておいた方がいい。

さて、この狂犬病ウイルスだが、
ここ数年世間を賑わわせているコロナウイルスの類などとは決定的な違いがある。

そう、感染経路だ。

コロナウイルスが飛沫感染だというのは大多数の人間が知っているだろう。
だから飛沫を防ぐためにマスクをしていたのだろう?

だが狂犬病はそうではない。
狂犬病は、狂犬病に感染した動物に咬まれることで感染する。

何故か?
ウイルスは、感染動物の唾液に大量に含まれているからだ。

咬まれた傷口から侵入した狂犬病ウイルスが狙うのは、哀れな被害者の脳だ。
だからまず手近な神経に侵入し、そこから時間をかけてゆっくりと脳(中枢神経)へ向かう。
故に、動物に噛まれてから狂犬病を発症するまでに
2週間~数ヶ月かかることになる(潜伏期間が長い!)。
発症するまでの時間は、咬傷が脳にどれほど近かったかが大いに関係する。
具体的には、脳に近ければ近いほど早く発症する。
そうして狂犬病ウイルスが被害者の脳に到達した時、
ようやく感染したことに気が付く、時既に遅し……
というカラクリだ。

(2) 症状

まず、犬での狂犬病の症状は大きく2つの型に分けられる。
狂騒型と麻痺型だ。
これらを比べて見てみよう。

●狂騒型
狂騒型は、前駆期、狂騒期(急性神経症状期)、麻痺期という順序で進行していく。

前駆期には、
暗い場所をいやに怖がったり必要以上にウロウロと動き回ったりといった、妙に不安を感じているような行動が見られる。
他にも、性格が突然変わるなど、ヒトでの認知症を思わせるような様子も見られることがある。

狂騒期になると、
まずとにかく攻撃的になる。
目の前にあるものなら何にでも咬み付こうとする。

(例:攻撃性を示す犬)

たとえ相手が自らの飼い主相手だったとしても、
錯乱したまま襲いかかり咬み付くだろう。

また、様々な刺激に対して興奮しやすくなる。
ちょっとした音や光等に対して過剰に反応し始める。

恐水症という水を恐れる症状は、
水を飲もうとすることが刺激になり、
咽喉頭(飲み込む時に必要な器官。のど)が引き攣り
激しい苦痛を伴うことによるものだ。
水を飲もうとすると苦しくなるのが分かっているので
水を遠ざけようとするのがその原因である。
水は勿論、食べ物も飲み込むのが苦痛になる。

喉頭の麻痺で鳴き声が変わり、
舌や顎の麻痺で舌を出しっぱなしになったり、口を閉められなくなったりすることもある。
口の中を気にするような素振りも見られる。

下半身も麻痺し、座り込んでしまうことが増える。

こうして最後に麻痺期へと移行する。

麻痺期には
大量の唾液を垂れ流し、横になったまま動けなくなってしまう。
意識は徐々に薄れ、呼吸不全に陥り、死を迎える。

●麻痺型
麻痺型は狂騒期のような劇症ではなく、一般に長い経過を辿る。
具体的に言うと、麻痺型には狂騒期が無く、前駆期の後に麻痺期となる。
咬まれた部位の筋肉から麻痺が徐々に広がっていき、
最後には呼吸が止まり死に至るというものだ。
他者に感染させる可能性は狂騒型より低いと考えられる。
なお、症例として麻痺型はほんの2割のみであり、
狂騒型が8割を占めている。

ヒトに感染した場合も犬とほぼ同じ経過で死に至る。
前駆期には、
頭痛や倦怠感、筋肉痛、嘔吐等、風邪のような症状を示す。
咬まれた部分やその周辺の灼熱感、
痛み、痒み等の知覚異常、筋肉の痙攣といった
特徴的な症状も現れてくる。
狂騒期~麻痺期においては、
やはり犬と同じく異様なほどの興奮や運動過多、
刺激に対しての過敏な反応、恐水症状、恐風症状、
錯乱、激しい苦痛を伴う痙攣等が認められる。
やがて全身が麻痺し、呼吸が止まり死に至る。

これらが、狂犬病の主な症状である。

(3) 感染源

さて、感染の原因、そして症状は分かったはずだ。
では、どんな動物が主な感染源となっているのだろうか?
勿論、狂犬病には全ての哺乳類が感染するため、
全ての哺乳類が感染源となり得る……というのを
前提として、だ。

厚生労働省は、主な感染源として

アジア、アフリカ;犬、ネコ
アメリカ、ヨーロッパ;キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、犬
中南米;犬、コウモリ、ネコ、マングース

厚生労働省 狂犬病に関するQ&Aについて

を挙げており、
中でも人に対する主要な感染源であると記載している。

「えっ……こんなに可愛いのに!?」

(4) 歴史

日本では、ヒトで最後に発生したのは1956年、
動物で発生したのは1957年の猫である。
しかし、それ以前には全国的に蔓延していた。

現在も世界中で発生しているのに、
日本はどうやって清浄国になったのだろうか?

それは、
1950年に制定された『狂犬病予防法』が鍵を握っている。
この『狂犬病予防法』に基づき、
・犬の登録の義務化
・犬への狂犬病ワクチン接種の義務化
・野犬の捕獲
が行われたのである。
なんせ相手は、感染すればほぼ確実に死ぬ病だ。
躍起になって撲滅しようとするのも頷けるというものだ。

こうして、1957年を最後に、
国内での狂犬病は確認されなくなったのだった。

日本は、“安心・安全”な清浄国だ。



​─────────…………本当に?


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