産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 龍一との出会い 4
あやめはあの翌日から変わった。
森本さんが仕事に行っている間家事を手伝うようになっていた。
その間2軒隣の実家からは何の連絡もない。
あやめを探す様子も見られない。
娘に興味がないのだろう。
学校には行けてなかったが森本さんとの家族のような暖かい時間が大切だった。
森本家で過ごして半月近く経った頃の話だった。森本さんから話す事があると呼ばれたあやめ。キッチンの椅子に座って森本さんと向かい合わせに座った。
『あやめちゃん、実は龍一さんのご両親に頼んであやめちゃんのパパを探してもらってたの。それでね、見つかったの!再婚して新しい奥さんと連れ子の5歳の娘さんがいるんだって。あやめちゃんのこと話したら新しい奥さんも会いたがっているそうよ。あとパパと新しい奥さんとの間に赤ちゃんが出来たんだって。まだお腹の中だけど女の子だそうよ。突然だけどあやめちゃんが2人の妹のお姉ちゃんになるのよ!あやめちゃんはどう思う?パパととりあえず会ってお話したいって思う?』
あやめにとって母親は最悪な存在だけど父親は違う。離れ離れになってしまっていたのでずっと会いたかった人物だ。
「…あやめ本当はパパと暮らしたかった!新しい家族…いいのかな?5歳とまだお腹にいる赤ちゃんの妹…会いたいなぁ。」
あやめは父親に会えるだけでなく姉妹が出来る事にも興奮して喜んだ。
『龍一さんのご両親のお話だととても優しい方みたい!5歳の娘さんは「お姉ちゃんが出来る」って家ではしゃいでるんだって。』
父親にも会いたかったけど妹にも会いたいという気持ちになった。
「パパの家族は何処に住んでいるの??」
あやめはウキウキしながら尋ねた。
『架空東海地方。』
「え…そんな遠く?おばちゃんとも龍一とも会えないじゃない!そんなの嫌だぁ!架空都心部に住んでると思ってたのに…」
あやめはてっきり架空都市部に住んでると思い込んでいた。
『離婚してすぐに架空東海地区に転勤になったそうよ。ちょっと難しい話だけどね、パパと一緒に住むにしても離れて暮らすにしてもママが親権持ってたら面倒なの。まだママにウチにあやめちゃんが住んでる事気付かれてないけど気付いたら未成年略取とか言って警察呼んだりして厄介な事される前にママからパパに親権を移そうって話になってるの。』
あやめには難しい言葉はわからないけれど母親が森本さんにイチャモンつけて来ることが何となく予想出来た。
「…そんなに簡単にパパの子供になれるの?」
『それは龍一さんのご両親に任せておけば問題ないわ。プロだから。あやめちゃんのママはあんな感じだから上手いこと言えば簡単に書類にサインするはずよ。この数日で全部終わらすって言ってたわ。だからパパと龍一さんのご両親に頼りましょう!それにウチみたいに狭い家じゃなくてあやめちゃんの仮住まいは確保出来てるみたい。ウチより広いわよ!』
あやめに大人の話は理解は出来ていないけど
母親と顔を合わせなくなるなら何でもよかった。あんな親と繋がりがある限りきっとあやめに幸せは来ない。
「でもおばちゃんとはもう一緒に住めなくなっちゃうの?さみしい…」
『ウチよりも広いし気を使わなくて済むわよ?仮住まい見せてもらったけどとってもキレイな部屋だったわ。』
「そうなんだ…。」
あやめは寂しく思う。
一方でこの半月の間あやめと龍一はそれなりに距離が近寄っていた。
龍一の学校が終わる時間帯にファストフード店で待ち合わせて小学校からの勉強を教えてもらったり蓮二と3人でゲームセンターで対戦して遊んでいた。
ゲームセンターで龍一とも蓮二とも対戦したけど2人に全く勝てないのが悔しかった。
特に蓮二には瞬殺で負けるから悔しくて本気で泣いた事が2、3回…泣かすつもりがなかった蓮二はあやめに謝ってコツを教えてあやめは前よりもパワーアップして龍一には勝てるようになったが蓮二には勝てない…。
あやめは充実していた。
不良と連んでいた頃いつも無表情だったあやめは心から笑う事が出来るようになっていた。
ようやくあやめは龍一の目を見れるようになった。
目が合ったらすぐ顔を真っ赤にして俯くと言って茶化されていた。
あやめは龍一を意識しているんだけど本人はそれが初恋だということがまだわかっていなかった。
一方で龍一はあやめを女として見て居ない。なんせ小学生だと思ってたのが第一印象なのでノリで友達になったただのガキという扱いだった。
半月の間にかなり接近しているが相手を想う気持ちが全く違っていた。
15時までは森本さんの家の家事の手伝い。夕方4時ごろにはファストフードかゲームセンター。夕方17:30頃に森本さんの家に送ってもらう。
ずっとそんな日々を半月近く過ごしていたが架空東海地区に行く前日の金曜日に龍一に話さないといけないと思って事情を話した。
「ねぇリュウ…あたし明日架空東海地方に住むかも知れない…パパがそこに住んでるって龍一のパパとママに調べて貰ったんだって。それでとりあえず1回会いに行く事になって…あんな遠くに行ったらもうリュウと友達でいられなくなるのかな…」
あやめは再び孤独になる事を恐れていた。
『俺も何となくだけどその話親から話聞いた。とりあえず会いに行くだけだろ?会いたいなら行って来ればいいじゃん!それにどこに行っても俺とあやめは友達だって。」
暗い表情のあやめの気持ちを汲み取って笑顔で応える龍一。
「…うん…そうだね。あたしパパと会いたい!新しい奥さんと妹にも!そうだよね…会うだけだもんね!」
あやめに笑顔が戻った。
『あやめ…前はもっと自信なさげな感じともっと生意気な感じだったのに。今は普通の女の子って感じ。変わったよな!』
龍一はあやめがいい意味で変わった事を言った。
「前が違ってただけ…カッコつけてた…本当はあやめ泣き虫だし恥ずかしがり屋だし…おばちゃんと一緒にいるようになって言葉遣いは元に戻ったのかな。」
照れくさそうにしている。
『泣き虫は知ってるけど一人称【あやめ】って言ってるのは初めてかも!可愛いじゃん!』
龍一はあやめの前髪をくしゃくしゃしながら撫でた。
「からかわないでよ!もう!」
くしゃくしゃになった前髪を戻すあやめ。
「…明日森本のおばちゃんとリュウの家族で架空東海地方に行くのかな?」
『さぁ?俺の両親は行くと思うけど細かい事は俺も知らない。』
「リュウは行かないの?」
あやめは顔を覗き込んで尋ねた。
『俺はあやめの家庭の事情には関係ないから行かないよ。いい結果になったらいいな!』
龍一は笑顔であやめの顔を見つめた。
「リュウはあたしがいなくなっても平気なの?」
『この週末だけの話だろ?すぐ帰って来るじゃん?』
たった1泊するだけなのに一生会えないみたいな言い方しなくても…と龍一は思った。
「もしパパの家族と住む事に決まったら…もうリュウには会えなくなっちゃうんだよ?それでも友達でいてくれるの?」
あやめは半泣きに近い顔になった。
『どこに行こうが俺はあやめの友達1号だよ!2号は蓮二かな?このところ毎日顔を合わせてたのが当たり前になってるけど俺とあやめは5歳も歳が違うから本来友達になる対象じゃないけどひょんなきっかけで知り合っただけであっちで中学に行って友達を作ったら俺のことなんて自然に忘れるんじゃ…』
するとあやめが立ち上がった。
「何その言い方!あたしみたいな子供と本当は友達でいるのが嫌だったの!?中学生と高校生が仲良くするのがダメなの!?友達1号って言ったのに突き放すような言い方するならもう友達じゃなくていい!リュウなんて嫌い!」
半泣きになって逃げ出そうとしたあやめの腕を掴む龍一。
『ごめん!言い方が悪かった…そんなつもりじゃなかった。俺はただ向こうに行って友達が出来たら俺の事なんか忘れるんじゃないかって思っただけ。俺、あやめと遊んでて楽しんでるし嫌だなんて思ってないから。』
ちょっとした沈黙が続いた。
その時龍一がバッグから何かを出して来た。
『実はさ…もしあっちに行った時何かあったらって。非常用じゃないけどさ、架空東海地区に住むって決まった時に渡そうと思ってたんだ。』
龍一はPHSをあやめに渡した。
『かける時はいつもの番号じゃなくてこっちの電話番号に電話して欲しい』
とまた名刺のような物を渡された。
「え…コレって大人じゃないと買えないんだよね?リュウ何台も持ってるの?」
『親に言ったらうるさいから松田さんに頼んで契約してもらった。これ無料通話の時間が長いんだ。あやめ用に1台頼んだんだ。支払いは俺がするから気にしないで。まぁ…なんかあったらかけて来いよ。』
「うん…。」
あやめは両手で抱えてピンクの携帯電話を嬉しそうに見つめている。
「ねぇ、リュウにとってあやめはどういう存在?」
顔を真っ赤にして龍一に尋ねた。
プレゼントを2回も貰ったのでどういう感情があるのか聞きたかった。
『うーーん…泣き虫なのに不良なんかと一緒に居た危なっかしい子!あと近所のガキって感じ!かな?じゃああやめにとって俺はどんな存在?』
質問返しされると思いもしなかったので答えに困った。
「…あ…うん…あったかい。優しくて一緒に居て…楽…しい…素敵な…もっと長く居たい人?やだ…恥ずかしい…」
耳まで真っ赤にしているあやめ。
龍一は何となくあやめの感情に初めて気付いてしまって自分まで恥ずかしくなって来た。
『あー!もうこの話終わり終わり!明日ウチの両親と一緒に行くみたいだけど緊張する間もなく馴染んで来ると思う。じゃあ明日いい事あったらいいな!』
「うん…ありがとうリュウ」
あやめはいつものように龍一に森本さんの家まで送って貰った。