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産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 龍一との出会い 1
今まであやめ目線の語りだったけど
この話から全体の視点の語りに変わる。
あやめは意を決してコンビニに入った。
豚とゴリラが店員の男の人に話しかけて注意をそらしている。
普段からそうやって店員から万引きをする子を視野に入れないようにやっているようだ。
その隙を狙ってあやめは順番にスポーツバッグに入れていった。
ビールや他の酒類は家で見ていたからわかるけど正直煙草は種類がありすぎて何がなにかあやめにはわからない。
適当にレジ前に並んでる物をバッグに入れる。
そのまま直ぐに出たらバレるので一旦トイレに入って盗んだ物がバッグを開けてもわからないように入れ直してからトイレから出ると別の店員があやめの顔を見て笑顔で壁に両手を広げて立ち塞がっていた。
年は幾つかわからないけれどあやめから見たら大人に見えた。
とても整った顔立ちの青年。
顔は笑っているが目が笑っていない。
豚とは全く違う人種だ。
その笑っていない黒い瞳に吸い込まれそうになってあやめは下を向いた。
万引きがバレたと確信した。
どうすればいいのかわからずおどおどするあやめ。
『あのさホントはさ、万引きって店から出てからじゃないとダメなんだけどさぁ。君お金持ってないと思うし絶対必要ないと思う物がそのスポーツバッグに入ってるよね?店から出てないし今このカゴに入れ直したら何処にも連絡しないからさ。ね?ちゃんと出さないとダメだよ?さ、早く。』
「…。ん…あ…」
あやめが言葉に詰まっていると豚とゴリラがコンビニから走って出て行った。
捕まえられたのが見つかった…
橋の上から飛び降り…100叩き…
『ねぇ、サッサと出せば悪いこと言わないから早く出しなよ。そのバッグに色々入ってるでしょ?俺事務所でずっと監視カメラ見てたからわかってるよ?』
あやめはずっと見られていたことに怖くなってバッグを開ける手がぶるぶる手が震えていた。
『ビールに酎ハイに酒のつまみに煙草に君さ、小学生でしょ?しかもコンドーム!?』
「小学生じゃない…中学生…」
『変わんないじゃん。何年生?いくつ?』
「1年生…12歳。」
『コンドームいるの?お酒も煙草も?』
「あたしは要らないけど豚が…あ…」
1ヶ月も経ってるのに未だに名前を知らない…。しかも見える所に居ない…
『じゃあ君が欲しい物は何もないのね?』
「この中にはない…いつも…やらされている事だから…」
『バイトの俺が言うのもなんだけど、まだ子供なんだからこんなの欲しけりゃ自分で買えってさっきのヤツらに言いなよ。パシリにされてるってわかってる?君が捕まってサッサと逃げるような卑怯な奴仲間でも何でもないぞ?しかも女の子に万引きさせるのも酷いけど中学生の女の子にコンドーム取らせるなんてセクハラじゃん?君にやらせる事で楽しんでると思うぜ?』
「…。何となく…わかってる…けど…やらなきゃハブられる…。」
『全部棚に戻すし誰にも言わないからさ。もうことするなよ?わかった?』
「…ん…わぁぁぁ…」
勝手に大声が出たと共に涙が溢れ出た。
あやめはこんな感情今まで感じたことがなかった。自分のやってる愚かさに気付いたようだ。
『ちょ…ここで泣かれると俺が泣かしたみたいになるから…ちょっ…マジで…ちょっ…松田さーん!この子泣いちゃってーちょっと事務所連れてくからしばらくいいかな?』
「はい。どうぞー。」
松田という店員が事務所に行く事を許してくれた。
ーー事務所ーー
『何で泣いてるの?悪い事したから?やめればいいじゃん。まだ中1でしょ?』
「悪い…こと…したのと…あたしが遊ばれてるのと…わかってたけど…独りが嫌で…万引きもカツアゲもしたくない…のに…しなくちゃ孤独になる…」
『悪い事してるってわかってるのにしないとアイツらに構って貰えないからやってるって事?俺だったら孤独を選ぶね!あんな奴ら君がもし警察に捕まるような事になったらサッサと逃げるぜ?誰も君に優しくするヤツいないのに一緒にいて楽しいか?』
「お前には…わかんないよ…あたしのこと!」
『わかるよ!本当は悪い事したくないってシグナルが今の涙だろ?』
「しぐな…?意味わかんない…あたし小学校もマトモに行ってないから言葉知らない…。」
『言葉は知らなくても君は今の状態が良くないってことはちゃんと頭でわかってるから泣いたんでしょ?それが本当の君の気持ちだってこと。』
「…でも…孤独は嫌…。」
『じゃあ孤独から解放してあげるよ。あいつらとつるむの止めて俺と友達になろうぜ。だったら1人じゃないだろう?』
「お前と?」
『お前って言うなよ。俺の名前は吉澤龍一って言うんだ。君の名前は?』
「龍一…あたしは四ノ宮あやめ。」
『あやめ?顔に合って清楚でかわいい名前じゃん。もう万引きみたいなことするなよ!学校に行かなくてもいいからあんなヤツ等と関わるの止めなよ!誰も友達が居ないなら俺が友達で居てやるからさ、いいじゃんそれで。
アイツらと関わってるよりはマシだと思うぜ?』
「龍一と…友達?でも…中学生じゃ…ないよな?」
『俺?高2。あやめとは学年は4つ違うけど17歳だから年齢は5歳年上になるな〜。今日は創立記念日で学校が休み。それとこのコンビニ俺の家と関りあって。今日人が足りないからって助っ人でバイトに来たらこんなことが起きたって感じだな。お前万引きって窃盗なんだぞ?わかってる?」
「窃盗ってなに?」
『泥棒!』
「やだぁ…」
『そういう事やってたの!言っとくけどこの店ウチが経営に関係してるんだからな!二度とすんなよ!」
「家なの…?龍一の…」
『細かい事省いて言えばそんな感じ。』
「わかった…絶対にしない…でもこのままだと…橋の上から落とされる…」
『橋の上?アイツらに言われたのか?』
龍一はあやめの顔をジッと見つめて来た。
あやめは龍一の黒くて真っ直ぐな瞳がちゃんと見れない。
汚れた豚みたいな顔ばかり見てたせいで汚くくすんでない目が見られない。
『名刺って訳じゃないけどコレ。』
龍一はあやめに1枚の紙を渡した。
そこには龍一の名前と電話番号が書いてあった。
『何かあったら電話して来なよ。電話番号書いてあるから。アイツらと縁切ったし俺と友達になった訳だし?』
少し茶化しながら言う。
「恥ずかしいよ…それに…電話する…お金…ないもん」
『1円も持ってないの?仕方ないなぁ。』
「100円だけなら…」
『電話ボックスから携帯に電話したら100円なんかすぐなくなるわ!」
と言って100円玉5枚渡してくれた。
「いいよ…」
『金、ないんだろ?格ゲーの女王様!』
「え!?何で…」
『俺見てたから知ってるぜ。金髪になって雰囲気変わってるけどあの時の子だよな?』
あのゲーム会場で参加していたのかが気になってあやめは龍一に尋ねた。
「おま…龍一は…参加してたのか?」
『俺?バイトしてたから主催側だよ!』
「あそこでもバイトしてるのか?」
『まぁ、あそこも俺の家の…ってヤツかな!』
眩しいくらいの笑顔でそう答えた。
『な!もうあやめは1人じゃない!俺が今日から友達だ!』
「う…うん…」
あやめは初めて自分を【友達】と言ってもらえた事が嬉しかった。
そして色んな約束をしてコンビニを出ようとしたら森本のおばちゃんが事務所に入って来た。
『あやめちゃん!?』
『森本さんお知り合いなんですか?僕今さっきこの子と友達になったんですよ〜!ね?』
「あ…うん…」
『後で森本さんとちょっと話してあやめのこと聞こう〜っと!今日のことはもうおしまい!またいつでもこのコンビニにおいでよ!森本さんとも知り合いなんだったらさ。今日捕まったんだしもうここにはアイツ等来れないでしょ!』
そう言ってあやめは事務所から出てしばらく何処に行こうかポツポツ歩いていた。
「友達…うふふ…」
あやめは龍一の顔を自分で思い浮かべておきながら照れ臭くなって来た。
しばらく歩いていると豚が前に立ちはばかっていた。
「…。」
『てめぇ、見つかりやがって!わかってんだろな!』
豚はあたしの力づくで腕を引っ張って先輩の部屋まで連れ戻されてしまった。
怖い…