産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 龍一との出会い 3
「あたしはウソつきなの?おばちゃんの家から勝手に出てゲームセンターでカツアゲしてる。不良から全く足を洗っていない…」
結局何も変わっていない事と嘘つきで裏切り者な自分が情けなくて泣くあやめ。
『昨日の今日で変わるとは思ってなかったけどさ。泣くくらい辛いならもう二度とこんなことすんな。誰から取ったかもわからないから返すアテもないだろうしその金は持ってればいい。でも二度とするな。せっかく森本さんの家に泊まれる事になったのに何やってんだよ?俺は昨日知り合ったばっかだけど森本さんとは長いんだろ?裏切るのはよそうぜ?あんないい人。』
あやめは自分が情けなくてずっと泣いていた。
すると横から野太い豚の声が聞こえて来た。
『あら〜!ウチのシマで何やってんのかね?名門私立のお坊ちゃま?そんな奴とアヤメが一緒に居るとはな!アヤメ!そのイケメンにヤられたのか?そんで泣かされたのか?』
『は?ウチのシマ?』
龍一が低い声で豚に一言。
『そうだよ!ウチのシマで何女泣かしてんの!女泣かすとかサイテーだな!』
『ヤクザじゃあるまいし何がシマだよ!馬鹿じゃねぇの?大体ウチの店(コンビニ)で女に変な物盗ませる奴がよくそんなこと言えるな!このセクハラ豚野郎が!』
龍一が豚に向かって怒鳴った。
すると
『俺を誰だと思ってんだ!』
豚が龍一に強気でアゴを突き出して言う。
『知るかよ。お前みたいな豚。おっと豚に失礼か!』
龍一は本当に豚の事など知らないようだ。
そもそも龍一の通っている学校は小中高一貫校だ。近所でもない限り公立校の者と知り合うことはない。それに中学生と高校生だますます知り合う事がない。
突然横から豚に向かって先輩と呼ばれていた男がが大きな声で
『ヨシノリ!やめとけ!イケメンの双子で帝校って言ったら吉澤兄弟だぞ!関わるな!ホンモノだぞ!逃げるぞ!』
と言った。
『吉澤兄弟!?』
龍一の名前だけでビビって逃げた豚…
双子とは?
豚が居なくなってもずっと泣いていたあやめ…
しばらくして顔を上げたら龍一が2人居た。
「龍一…2人?どういう…こと?…」
あやめは何が起きているのかわからなかった。
全く何もなかった所から龍一がもう1人出て来た…手品を見せられたような感覚。
『あぁこっちは俺の双子の相方。蓮二。』
同じ顔をした蓮二という龍一が立ってた。
(あれ?もしかしておばちゃんが龍一さんって言ってたのはもう1人いるから?ってこと?)
あやめはぽかーんとした顔で蓮二を眺めていたら
『どうも!蓮二です!バイトに来てたらなんかうるせーのが騒いでたから来ちゃった〜。この子があやめちゃん?昨日龍一から聞いたぜ!ゲーム強いんだって?今度俺とも対戦してよ!』
(チャラい…)
あやめは蓮二にそういう印象を持った。
「あ、うん…でも強いん…でしょ?」
『まぁ〜リュウよりは上手いかな!』
蓮二は顎を上げて勝ち誇ったような顔で言った。
『いや、俺の方が』
龍一が食い下がる。
『いやいや俺の方が…』
同じ顔の男が言い合いをしている。
あやめは奇妙な現象に合ったかのような顔で見ていた。
「どっちにしても…あたしが負ける…」
あやめはうつむいた。
それからさっき豚たちが言ってたことが気になって
「さっきアイツが…双子の…吉澤兄弟とか…ホンモノ…とか言ってたけど…どういうこと?2人は何者?」
と不思議そうに尋ねた。
『ただの私立校の双子だけど?』
と、2人でハモって言った。
『俺の事なんてどうでもいいから森本さんの家に早く帰りなよ。送って行こうか?』
龍一がニコニコしながら聞いて来る。
あやめはまだ龍一の黒く吸い込まれそうな瞳を見ることが出来なかった。今までに見なかったタイプだったから。真っ直ぐな瞳。
人を魅きつける瞳。
あやめは下を向きながら
「いいよ…自分で帰る」
きっと顔を見る事が出来ないのは豚みたいな不良とつるんでいたからなんだとあやめは思った。
『ヤダね!昨日の今日約束破ったから家まで着いて行くわ!お前ウソつきだから。蓮二も行く?』
龍一は蓮二に聞く
『俺はいい。ゲーセンのバイト中だし』
蓮二はゲーセンのバイトに来たらしい。
「もう…ウソ…つかない…」
『ダメー!俺森本さんの家知ってるし!なんなら加奈子の事も知ってる!だから着いて行く!』
ニコニコしている。
どうしても1人で帰れない雰囲気になってしまった。
「ウソつきじゃない…証明…するから!」
あやめは龍一の存在を無視して1人で森本さんの家まで歩いて帰ったけど入り辛くてアパートの前で足を止めた。
「この2軒隣が…あたしの家なんだ…こっちに帰るから…もういいだろ?」
『家に入るまでは見張っとく』
「家には帰れねーんだよ!ボンボンの学校に行ってるテメーに何がわかんだよ!」
『普通に喋れるじゃん!あやめの家は複雑って森本さんに少し聞いた。…でもあんなのとつるんでるくらいなら家に帰った方がマシなんじゃ…』
「あ…あたしは家に帰ったら身体を売って金を儲けてあの女…ママに渡さないと家に住まわせてもらえないだよ!身体を売るってよくわからないけどいやらしいことするんだろ?こんな家に居場所なんかねーんだよ!」
家の事になったら感情的になるあやめ。
『想像以上にひでぇ親だな…だからか…森本さんが児相に相談しようかどうか悩んでたけど可哀想だからしばらくは面倒見るって言ってたのか…。その事でウチの親に相談しに来てた。さっきは悪かったな。ゴメンな。でも今は森本さんが面倒見たいって言ってたんだからさ大人の言う事に少しは甘えろよ!加奈子がキツいなら俺が注意してやっからさ!森本さんと親が色々相談中だからしばらくそこに居ろよ!』
「え…。何でおばちゃんが龍一の親にあたしの相談を…?」
『俺の親と森本さんが知り合いなんだ。その繋がりでさ。あやめが森本さんに遠慮せず過ごせる場所も考えてたぜ?しばらく大人しくしてろ。迷惑かけたくないからってカツアゲしてたら意味ねぇだろ!だから今日は森本さんの家に帰れ。俺はお前が家に入っても1時間は見張ってるからな!』
龍一の言っていた事が本当かウソかはわからないけどあやめは素直に森本さんの家に入る前に…
「加奈子お姉ちゃんのこと知ってるの?何で?」
『小さい頃…近くに住んでいたんだ!だから森本さんのこと知ってるんだ。加奈子は性格キツいけど根は悪いヤツじゃないぜ。でもあやめとは合いそうにないな!』
「付き合ってるの?加奈子お姉ちゃんと?」
『何で?俺が加奈子と!?ありえねー!あははは!そんなこと気にしてないでさっさと家に入って森本さんの家事の手伝いでもしてろよ!』
「わかった…もう家から出ないから帰っていいよ…」
あやめは森本さんの家の鍵を開けて家に入った。
明日からはもう不良が行くような場所には行かない。と決意したのであった。
1時間経って本当に龍一がいるのか確認するのに外に出たらまだ龍一が外にいた。
(ホントにまだ居る…)
カツアゲで儲けたお金だけどお金はお金だ。また金を取られるのも嫌なのであやめは100均で財布を買いに行く事にして龍一に告げた。
『じゃあついて行くわ』
「何で!?」
『万引きしないように。』
「しないって決めたの!じゃあ…お財布選んでくれる?あたしそういうの全然わかんなくて…」
『100均の?もっといいの買いなよ!せめて3,000円くらいの!』
そんな高い財布買ったらお金が無くなってしまうと思うあやめ。
あやめにとって3,000円は大金だ。
「それに…そんなの売ってるところ知らないもん。」
あやめは小さい頃に父親とファンシーショップに行ったきり一度もそういう場所に行った事がない。
『ショッピングモール行こうぜ!』
と龍一が元気よく走って可愛いグッズがいっぱい売ってる店に連れて行ってくれた。いかにも中高生の女の子が好きそうな雑貨店。
『カツアゲで儲けた金で財布買うなら俺が買ってやるよ!5,000円までだかんな!その金は…まぁ置いとけ。財布買うのに使うのは縁起が悪い!』
龍一は笑顔でこっちを向いている。
「え?でも…」
『100均の財布よりかわいいのあるぜ?』
あやめは他人から物を買ってもらったことがなかったので龍一に買って貰えることが少し恥ずかしかったけど嬉しい気持ちの方が勝っていた。沢山ある種類の中から何にしようか選びに選んでネコの模様のピンクの財布に決めた。税込み3,980円。龍一が店員に何か話してラッピングしてもらった物を店員があやめに渡して来た。
「あ…ありがとう…こんな高い物…」
あやめは赤くなりながら龍一にお礼を言った。
『値段なんて気にすんな。もう変なことすんなよな!』
「うん!大事にする!二度とカツアゲはしない!」
パッケージを胸元で抱きしめて龍一の顔を見て言った。
『お前普段小さな声で喋るくせに急にでかい声でそんなこと言うなよな!ビックリしただろ!』
龍一は豪快に笑った。
あやめは自分で言った言葉が恥ずかしいと気がついたけど言ってしまった自分にちょっと笑ってしまった。
「やだ…」
顔が真っ赤だ。
『帰りに変なのに遭遇しないように森本さんの家までちゃんと送ってやるよ!』
龍一はまた不良に絡まれないように家まで着いて来てくれた。
あやめは他人に優しくされたのは森本さん以外に居なかったのでとても嬉しい気持ちになった。
(…あたしにこんないい物買ってくれたけど…いいのかなぁ…彼女はいるのかな?もっと龍一の事知りたいなぁ…あ…前に読んだ少女漫画に描かれてた感じに似てる?なんだろうこの気分…)
あやめはまだ龍一と会って1日しか経ってないのにすごく気になっている。