クルマに生きる、文化財を駆る~Part.1~
2024年が明けてまだ1週間の頃
元日の北陸を襲った地震のニュースに連日心を痛める中、偶然、朝の情報番組でこのnoteというサービスを目にした
そういえばこれでいろいろと書いている知人もおられたなと改めて思い出し、然らば我もと、とりあえずアカウントを作ってみる
私が書けるネタ、人に誇るようなこと
残念ながら早々頭に思い浮かぶようなことはない
ためしにと注目記事の見出しを眺めてみる
私がむしろnoteで学ばせていただきたい内容ばかりである
ここで書くことが何処のどなた、何人のお方の目に留まるかは存じませぬが、ネットの海に自らの駄文を放つなら、皆様にはちょっとばかり物珍しがられる私の話を書いてみましょうかとパソコンに向かうに至る
好き勝手長々と書かせていただくので、読みにくさは平にご容赦を
本日より3日間、3回に分けて投稿させていただく
私について、という前に
皆様もひとつくらい、世の中の人間誰にかかってこられようとも、それに対する情熱や気持ちだけは負けない!というものがおありだろう
なにも特技とまでいかなくていい
推し活の熱量とかそういうものも「我こそがNo.1だ!」ど思っている人も多くいらっしゃることだろう
素晴らしいことだ
推し活ブームに世の中が湧く中「推し活費は人生を輝かせる光熱費」という言葉は非常に言い得て妙だと思っている
About me
私の場合、これまでの人生を振り返ったとき、何を一番の楽しみとし、何に一番お金をかけ、何をモチベーションに仕事をしてきたかと問われれば
答えは明確で「クルマ」である
まず何故表記が「車」ではなく「クルマ」というカタカナ表記なのかという話を少ししたい
私の感覚的に漢字は「道具としての車」、カタカナは「趣味としてのクルマ」という印象が私の中にある
別に辞書的に決まっているわけでも、クルマ好きの暗黙の了解でもない
ただ書いてみると私の感覚的にこっちの方がしっくりくるのだ
我が家は父方、母方共に家計の男性陣は全員もれなく超がつくクルマ好き
新年に親戚一同集まれば女性は子育てを中心に世間話、男性はずっとクルマと話題が決まっていた
日本車、外車、スーパーカー、SUV…
それぞれの分野のマニアが身内におり、普通免許で乗れる範囲のクルマと名の付くものほぼ全方位的に話題が及んでいた
大概こういう家計に生まれた男の子は漏れなく親の影響を受けてその道を歩むというのが世の定石だが、私も例外ではなく、その通り王道を歩んできた
特に3歳のときに誕生日プレゼントとして贈られたトミカの10台セットは、私の人生を決定付けたといって過言ではない
今残っていれば、あのトミカも少しはプレミアがついていたのだろうか
ブックオフのショーケースを覗く度に「あぁ…あれ絶対持ってた…」悲しくなる日々である
メッキがはがれ、カラフルな塗装が銀色になるまで遊びつくしたことは今でもはっきりと覚えている(それでは仮にレアものでもプレミアはつかなそうだが)
そんなクルマ大好き一族の家に育ち、免許がない頃からミニカー集めに没頭していた私
ちなみにゲームもやったが、ひたすらグランツーリスモはじめクルマのゲームしかやっていない
PlayStationはゲーム機というより「グランツーリスモをやるための箱」であった
フェラーリが真っ先にゲーム内使用を許可したソフトがあるとという点だけで初代Xboxも買った
F50を手に入れるまでだいぶやり込んだものである
少年なら一度は通るウルトラマンや戦隊ヒーローものは、肝心のヒーローや怪獣より登場するクルマが興味の対象だった
原作を1mmも観ることなく西部警察は完全にパトカー見たさから好きになり、007はまずボンドカーをチェック、クルマが要素的に全く関係のない映画でも逐一登場車種が気になる体質は今も健在である
大学入学後、すぐに夏休みの合宿で免許を取った
初心者マークを貼るのが嫌すぎた思い出があるが、初めて自分の手でクルマ動かした感動は忘れがたいものであった
愛車遍歴はここでは置いておこう
多くはないが、乗り継いできたクルマたちは私の人生に移動手段(漢字の車)として以上の価値をたくさん提供してくれた
旅行の思い出、趣味を同じくする者との出会い
そしてあるときはクルマ趣味から繋がったご縁で、一緒に大きな仕事をさせていただくこともできた
家族含め、多くの車に乗ってきた
新車でも中古でも、求めるときには最大限自分の拘りを詰め込み、ときには少しだけ改造したりして、自分だけの一台、誰とも被らない一台を持つことが何より嬉しかった
ちなみに私はクルマに関して相当な「レア度厨」である
どんな細かい仕様でもいいから、自分だけのオンリーワンが欲しい!という気持ちが強い
ネットで中古車を探したとき、自分のと同じ車、同じ仕様が少ないのを嬉しく思う体質である
拘り抜いたクルマには愛着が湧き、そしてずっと共に旅をしたいと思うのがクルマ好きの方にはお分かりいただけることだろう(と信じている)
そして我が家では全てのクルマを「うちの子」と呼んで可愛がっている
そんなクルマに生かされた私の人生を変えた、ある1台との出会いのストーリー、そして私のクルマについて思うことをここでは書き進めてたいと思う
出会いは突然に
出会いが訪れたのは2018年の夏
いつものクルマ仲間と集まっているときだった
「そういえば、あの珍しいクルマが1台売りに出るらしいね」
会話の中でふとこんな話が上がった
はじめは耳を疑った
私以外のその場にいた人間も「え?あれが売りに出てるの?」といった雰囲気であった
なにせ、そのクルマは日本に5台しか存在しない
日本どころではないアジアで5台なのだ
「あれって世界限定100台だっけ?」
「たしかそれぐらいしかなかったはず」
そのクルマを持つことを許されたオーナーが、そうやすやすと手放すような代物では絶対にないはずである
私はそのクルマが大好きだった
モデルカーも持っていたぐらいである
「興味ありますね。売ってもらえるのかな?」
半分冗談、でもそれは「本当にあるわけがない」という先入観からくる発言で、残り半分は淡い期待だった
「車検前に手放したらしいですよ。トライしてみる価値はあると思うけど、相当な値段なんじゃないかな…?」
話していたクルマ仲間は相当な所謂コレクター気質の人間で、持っている情報は確かだった
「あそこのディーラーさんが買い取って、今持ってるらしいよ」
すぐに聞いたディーラーにメールを打った
「このようなお話しを○○さんから伺っている。決して冷やかしなどではなく、お話しを伺わせていただきたい」
つらつらと熱量だけは込めた
返信はすぐに来た
社長自らだった
「お待ちしています。是非見にいらしてください」
写真も何枚か添えられていた
間違いなく物はある…!
所在地は私が住んでいるところから新幹線か飛行機に乗って向かわなくてはいけないほど遠方
すぐにその週末の飛行機のチケットを取った
対面のとき
中古車の購入はスピードが命である
「一晩考えます」「妻と相談します」などと流暢なことを言っていると、人気のクルマは翌日にはキャッシュ一括で買っていく他の客に取られたなんてことはザラだ
だが、今回の話はまた勝手が異なる
表に情報がほぼ出ていない今は、おそらくディーラーが「購入すべき可能性のある既存顧客に個別に声をかけ、反応を探っている」状態だ
得意先に売り、あわよくば車検整備でまた戻ってきたりすれば売る側としては二重にオイシイ
オーナーが飽きたらまた買い戻し、年月とともにプレミアの付いた価格でまた他の客に売れれば三重でオイシイわけである
もしここで買い手が現れず、物件が公に出ればまず真っ先に食らいついてくるのは日本全国の希少車に目ざといプロの人間だ
海外のカーバイヤーたちも黙ってはいないだろう(特にこの傾向は円安の昨今、ますます激化しているように思われる)
こうなるともはや素人一個人が勝負できる次元ではない
飛行機に揺られる私の心は早鐘を打っていた
まるで原田マハの小説の登場人物のように、幻の名画に会いに行くような心持であった
そのクルマに会うのは実は初めてではなかった
過去に何度か同じ物を目にしたこともある
メルセデス・ベンツ G63 AMG 6x6
(シックス・バイ・シックス)
過去に見たことのある個体は白であった
黒い個体を目にするのはこれが初めてだ
この写真は、対面したその日に撮った最初の1枚である
その甚だ普通車としてナンバープレートを付けられることに違和感しかない巨体に、しばらく息をするのも忘れて見入ってしまった
「ゲレンデ」という存在
ここで、このクルマについていくつか説明をさせていただきたい
クルマがお好きな方ならば、ゲレンデという名前を知らない人はいないだろう
(語源こそ同じだが、ここでのゲレンデはスノボーやスキーで滑る山の斜面のことではない)
メルセデス・ベンツという自動車の基礎を気付いたブランドが長くにわたり世に送り出しているゲレンデ・ヴァーゲン、通称「Gクラス」と呼ばれるSUVの最高峰モデルである
発売当初からほぼ原形のデザインを変えず、乗用車としてはもちろん、軍用車などの分野においても世界中で広く使われているクルマである
一度ゲレンデを手にした人はまた必ずゲレンデに乗り換える、といわれるほどコアなファンも多く、日本国内でも専門店が多数存在し、マニアの間で頻繁にオフ会が催されるほどの人気ぶりだ
そんなGクラスが世界で最も売れている地域は、実はアラブの砂漠地帯でもなければ車庫も道路も広いアメリカでもない
日本の東京である
東京のクルマを複数台持つ必要がない(住宅事情的に持てない)、駐車スペースも限られる環境だからこそ、汎用性の高いハイクラスSUVとしてGクラスは確固たる地位を築いている
悪路層は性能はもちろんのこと、通常モデルなら家族5人で乗れて積載力も十分
少しYouTubeを探せばゲレンデを購入したという芸能人の動画がわんさか出てくる
都内で不動産を探す際、駐車場の条件を求める方は「ゲレンデ入りますか?」がどの不動産屋にも通じるという話まで聞いたことがある
それほどゲレンデ人気は凄まじく、時として中古車の価格は新車を遥かに上回る
世界的な人気により新車納期が極めて長く、一刻も早く手に入れたいユーザー層がごまんといるのだ
裏を返せばこれは「価値が下がらないクルマ」ということもでき、ある程度乗った後でも高額で売却できるので、まさにいいとこづくしのクルマなのである
そんなGクラスの数あるバリエーションの中で頂点に君臨するのが6x6だ
最大の特徴は後方に4つ、計6つのタイヤを有する六輪駆動
SUVの枠を超え、もはや4tトラックと呼ぶべき規格外のモンスターマシンである
ご存知ない方はこのビジュアルに「何コレ?」が率直な感想であろう
(そして「こんなもんどこで乗るんだ?」というツッコミが大量発生することも十分わかっている)
このクルマの詳しいことはGクラスのWikipediaの「特別仕様車」の項目から確認していただきたい
(こちらの項目は、国内でこの車両を現在預かる者として、私が全て責任を持って正確を喫し執筆している)
その希少性と運動性能から、特に砂漠を走る高級SUV志向の強いアラブの富裕層を中心に世界的に絶大な人気を誇り、2024年現在、その市場価値は日本の新車発売価格の倍近くとなっている
ここまで読んで未だに「なんじゃこりゃ?」な方には下記動画を視聴していただくと、まさに百聞は一見に如かずである(※注 全編英語)
イギリスの大人気クルマ番組Top Gearで同車が紹介された際のものである
ここであれこれ述べるより、まずはご覧あれ
一般的に最も印象が強いのは、メルセデスがスポンサーを務めた映画『ジュラシックワールド』での登場であろう
パーク内で暴走した肉食恐竜を止めるべく、武装した警備員たちが乗り込んで森に繰り出したシーンに登場する姿を覚えている方もいるのではないだろうか
納車
そんなとてつもないクルマのうちの1台の話が突然私のところに舞い込み、新しいオーナーを探していると待ち構えていたのだ
「貴重なクルマだから大事に乗ってくださる方になら儲け度外視で売りたい。うちは軽トラでも何でもお客さんが欲しいと思ったクルマを扱うんで、これで儲ける気は更々ない」
社長の口から飛び出してきた言葉は私の想像と完全に真逆のものだった
社長と私とはそのときが初対面である
ましてそのディーラーはこれまで世界の名立たる名車・希少車を取り扱ってきた、いうなれば敷居の高いお店だ
それでも私を信じてくださったことは、今でも感謝の念に絶えない
人生において幾度となく判子をついてきたが、このとき以上に手が震えたことはない
我が人生をかけてでも、この子は大切に、海外の転売目当てのバイヤーから守り、日本国内に留めておこうと心に誓ったのだった
ちなみに、後日談として社長からこんなことを頼まれた
「世間のリアクションを見てみたいので一瞬だけ、ネットの中古車情報に掲載してもいいですか?」
私も結果が気になり、快諾した
実際に納車になる日、結果を聞いてみた
「もうえらいことになりました…明らかな同業者から今すぐ全額すぐ振り込むから売ってくれと言う人、興味本位で電話してきた中学生ぐらいの子供までいましたよ笑」
笑いながら、私は少し背筋が寒くなる思いがした
本当にあと一瞬でも行動を起こすのが遅ければ、きっとこの子はよそへ、下手をすれば日本の地を離れ、どこかこのクルマが発売されなかった諸外国の大富豪の元へいってしまっただろうと
こうして思い返しても、本当に全てが奇跡すぎる僥倖だった
私は普段からメルセデスベンツの車も愛用しており、正規ディーラーとも長い付き合いがあった
「とんでもないのが手に入った。整備の受け入れ体制を取ってもらいたい」
と電話した担当者が「本気で言ってます…?」と訝しげにしていたのを今でも覚えている
かくして我が家にG63 AMG 6x6がやってきた
真っ先に報告をしたのはあの第一報をくれた友人、そして彼をはじめとするクルマ仲間たちだった
第一声は
「は!?買ったの!?!?」
だった
いやいや、教えてくださったあなたのせいですよ笑
ツッコミを入れつつも、非常に誇らしく、嬉しいやりとりだったことは今でも忘れられない
「ご縁」とはかくなるものなのか、よくぞ我が家にきてくれたと今でも我が家に来てくれたと、その全高2.3mあるボディを見上げる度に思っている
(Part.2につづく)
https://note.com/shiohiro714/n/na836cc28077d