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拗らせ男子、短編小説入門。(7杯目)

書きたいことがあるとそっちを優先してしまい、読書メモは後回し。そんな感じである。


ジョーカーのサンドイッチ

彼はトランプのカードから抜け出し、今ここにいる。理由はわからないが、カードの中から見たサンドイッチを自分ならもっと美味しく作れるのではと夢想していた。そして今、目の前には食べ残されたサンドイッチがある。

ちょうど男たちはストリップを観に出かけたところだった。不況で仕事を失い、トランプとストリップ見物だけが唯一の楽しみだった彼らは、「ラスト・ジョーカー」で遊び、負けた男がジョーカーをテーブルに投げ出した。その瞬間、神はジョーカーのカードから彼を解放したのだ。

サンドイッチをひと口食べると、彼は記憶を探り始めた。(俺は昔、この味を知っていた気がする……) だが、どんな生活を送っていたのかは思い出せない。ただ、美味しく作るコツはなぜかよく知っていた。(大胆にして繊細に……そうだ、これがサンドイッチの極意だ)

二年前、不況で仕事を失い、途方に暮れてこのカフェにたどり着いた男がいた。彼はカフェで働いていたシルヴィアに一目惚れした矢先、店を開こうと夢見たが、賭けトランプで資金を得ようとして負け、逃げようとした瞬間に消えた。いや、消えたのではなく、ジョーカーのカードの中に閉じ込められたのだ。

そして今、彼はここにいる。シルヴィアが彼に気づき、彼は言った。

「もっと美味しいサンドイッチを作らなきゃダメだよ」

シルヴィアも心の中で同意してしまう。返事も待たずに厨房へ入り、完璧なレシピでサンドイッチを作り上げた。

シルヴィアは驚き、「すごい……美味しい!」と感嘆した。彼は満足げにうなずいた。(いずれ俺は店を開いて、彼女と幸せに暮らすのだ)

そこへ男たちが戻ってきた。「よし、ゲームの続きだ」 カードをシャッフルしながら、男のひとりがふと気づいた。「このジョーカー、こんなに笑っていたっけ?」


彼をジョーカーにしてしまう神様は、どうも長引く不況を鑑みて、彼をトランプから出したらしいのだが、彼はあっさりシルヴィアの前でお店で売れるサンドイッチを作ってしまう。その後のお店の繁盛はご想像にお任せっ☆キャピッ

そもそもジョーカーは中世ヨーロッパの宮廷道化師をモデルにしてるんだっけか。王様に唯一小咄ついでに意見できる役割。なんともトランプらしい。タロットカードでは、正において、自由・型にはまらない発想力・天才という立ち位置。逆においては、軽率、わがまま、注意欠陥多動性。この物語ではジョーカーの両面を見事に表現しながら彼らしい本領を発揮しており読んでいて痛快だった。

サンドイッチってのがいいよね。手軽さにギュッと詰め込んじゃうやつ。もうシェフのキューバサンド中毒っす。

今日は長続きの雪からようやく晴れたんで映画館にでも出かけたいっす。

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