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拗らせ男子、短編小説入門。(3杯目)

さて、昨日のサウナのおかげか久しく7時前にすっきり起床。実家に戻った際に父の部屋を空け渡されたため部屋の構造の制限上、自身にしっくりくる導線やレイアウトに試行錯誤する日々。いっそのこと壁やらぶち抜いて自分好みにリノベーションでもしたいくらいだ。ともかく早起きできたのだから年季の入った窓の汚れを掃除することにした。

なんと窓を外すとこんなにも視界が開けるのか。天気もさることながら雪のおかげで日本の美意識にさえ通づるものを感じる。折角だし丸窓に替えてしまおう。なんて冗談は置いといて、窓は不要なようなので捨ててしまおう。←

その後はnote初心者ゆえ、自分のためになる使い方があるかいくつか記事を参考にしていたら思いのほか楽しくなってしまい、ちょっと長い昼寝も挟み気づけば夕方。やっちまったと思えば、まあ悪い気もしない。

そんなうっかり屋さん醸造後の一篇。



黒豆を数える二人の男

舞台は魔物が棲みついていて用事がない限り立ち入りを禁じられている山奥。東から山に入った少々くたびれた三十三歳万年青年タナカ。西から入った立派な体躯の中年男フルタ。二人は魔法を修得するために椿事にも同日同刻に禅寺に赴いた。修得するまでの時間を尊ぶことに主眼を置いていることも承知の上のようだ。寺の主の老師大坊という人物は二人を快く受け入れ、その夜から早速修行が始まる。二人は自由飲食を禁じられ三十ワットの裸電球がぶら下がった相部屋に押し込められる。

裸電球を捻って床に就き、フルタは言う。

「おれは、じつを云うと殺し屋なのだ」
---中略---
「しかしまぁ、こわがることはない。おれとしても、こんな寝ざめのよくない仕事をつづけたくないんだ。ここはひとつ魔法を修得し、手品師みたいに、何もないところから札束を取り出そうって寸法だ。」

タナカは言う。

「アオという名前の小さな鳥にもういちど会いたいのです。」
---中略---
「いい鳥なんです。とても頭がよく、ときどき、人間のようにくしゃみをしました。しかし、アオは自分がくしゃみをする鳥であることを恥じていて、それである日、部屋の窓から飛び去ってしまったのです。」
---中略---
「もう二年になります」

それから一週間あまり励んだ修行は酷いもので、中でも長い時間繰り返されたのが、黒豆の数を数えるというもの。大坊の弟子である女ミズキは二人に言う。

「その数を一瞥で数えなさい」

皿に黒豆がまかれた瞬間にその数を当てた分、二人の夕食となる。フルタはその修行に早速音を上げ、「肉鍋」を欲する。「あんたは?」と話をふられたタナカはしばらく考え、「湯気のたつ熱いコーヒーとドーナツ」と答える。フルタは言う。

「あんたはまだ子供なんだな。しかし、それでいいのかもしれん。魔法なんてものは子供たちが夢見るもので、おれのように世の中のいちばん底をうろついてきたヤツには、まるで似合わない。」

「そうでしょうか。僕はそう思いません。フルタさんが本当にそのいちばん底から逃れたいと願っているなら、そういう人にこそ、魔法は宿るのではないですか」

フルタは「へっ」という言葉とどうにでもとれる表情をし答える。

「知ったようなことを云いやがって」

毎日続けたこともあり、コツを掴んだ二人は次第に難なく数を当てられるようになる。しかし、とうとうフルタはたまらなくなり寺を逃げ出した。一人残されたタナカは、次の日から調子が上がらない。フルタと競い合うことで上達していたのだと思い知るが、ミズキに本来修行は一人でするものだと諭される。

一人裸電球を捻って床に就くタナカは、街に戻ってドーナツ屋を始めたフルタの夢を見る。夢の中で白い箱に詰め込まれた色とりどりのドーナツを吟味するも目が覚め、果てにはひとつとして黒豆の数を当てられなくなった。

その夜タナカはついに思いを決め、部屋を抜け出る。少しずつ暗さに目がなじんできた時、思わぬ人影が生じ、人影はミズキの声で言う。

「フルタさんからの差し入れです。」

 コーヒーと一緒に白い小さな箱が手渡され、「もしや」と思ってふたをひらくと、夢で見た通りにドーナツが入っています。ふたの裏には、子供みたいな拙い字で、「あんたはもういちど、アオに会える」と書いてありました。
「なんだか、夢のようです。」
 タナカは口を結んで目を閉じました。

読み終えた瞬間タナカの最後の言動に胸をぎゅっと掴まれた。似ても似つかない二人。床を共にし黒豆を数える日々は、結果としてフルタの心境を変化させ、タナカの心を潤し、二人を救った。確かに魔法を修得するまでの時間に価値はあったのだ。続きが綴られなくとも、タナカはその差し入れを悦んで受け入れるだろう。


私は、どちらかというとタナカ側の人間なのだろう。

初投稿の記事の見出しに使用した画像の猫。

なんともモップとジャバ・ザ・ハットを足して割ったような愛くるしさか。養鶏場の地域猫だ。基本動物を愛でることはキリがないのでしない主義だが、彼は例外だった。他の地域猫をまとめ、明らかに洋猫であろうその長毛は手入れをしないとすぐに絡まる。案の定鳴き声はカッスカスで聞き取れない。

毛を勢いよく逆撫でしワックスさえつけてしまえば、天然のスーパーサイヤ人3を楽しめる。イケメンアングルとブサイクアングルを兼ね備え、時にはライオンのように凛々しく、フクロウのように上品。山際の庭付きの貸家にでも住んで飼ってもいいかとさえ思えた。養鶏場の主人はいつ貰いに来てもいいと言ってくれた。

しかし、私は実家に戻ることとなり正直寂しい。皮肉にも実家には、父お気に入りのあれよあれよと世代交代を果たす「小さな鳥」がいるので交渉の余地がない。

今はその時ではないと。
私は裸電球をゆっくりと捻った。

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