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【取材】塩竈市旭町 おむすび山咲
日本の伝統的かつ代表的なメニューでもあり、ソウルフードといえる、おむすび、おにぎり。
子供時代、誰もがお弁当として持たされたことがあるだろうし、いまでは、日本だけではなく、海外のコンビニでも売られるほど気軽でポピュラーな存在になっている。
ある意味、目新しいわけでもなく、家族のお弁当として誰もがつくれる「おむすび」を商品としている店もある。
塩竃市の「おむすび 山咲」も、そのひとつ。
いったい、なぜ、いま「おむすび」なのか、根掘り葉掘り聞いてみた。
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― まず聞きたいのですが「おにぎり」ではなくて「おむすび」なんですよね?
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はい。
実はおむすびの形は三角と決まっています。
一方、おにぎりは三角、丸、俵型など決まりはありません。
三角には神が宿るとされている神聖な形で、お店のロゴにも象形文字のテイストを残しています。
昔の人々は「おむすび」を持ち歩き、食べる事で神様に守ってもらえる、道中の無事を祈っていたそうです。
きっと塩竈神社の神様が三角の「山咲のおむすび」に宿り縁起の良いおむすびだと思って毎日一生懸命お作りしています。
山咲の「咲」という文字も、巫女さんが笑う、という意味があり、おむすびを頬張って巫女さんが笑う、というイメージを持たせています。
そして、おむすびに宿った神様が、皆さんとのご縁をむすんで下さる、と。
これが店名の由来になっております。
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― ものすごい深いストーリーが込められていますね!じゃあ、ここでは「おむすび」に統一させて頂くとして、おむすびを商品としたのは、どうしてなのでしょう?
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実は前職がアパレル、イベント関係の仕事でして、2020年に新型コロナウィルス感染が拡大して、イベントのほぼすべてがキャンセルになりました。
そこで、テイクアウトで手軽に食べられる食べ物を売りたいと思いまして…
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― え?コロナ禍になってから起業したんですか?しかも一番打撃を受けている業種のひとつで?
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はい(笑)。
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― すごい勇気ですね。いろいろな商品があるなかで、おむすびに特化した理由は何ですか?
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昔から親しまれている食べ物で、みんながよく知っている食べ物だからこそ、従来の概念を超えた新しいおむすびを提供できると感じたからです。
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― 具体的には、どういうことでしょう?
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当店のWebサイトにも書いていますが「どこから食べても美味しい」おむすびです。
みなさんが思い浮かべるおむすびは、ある程度食べていかないと、具が分からない。
でも、山咲のおむすびは、このようにひと口目から具の味が楽しめます。
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― たしかに、これは食べる側には嬉しいですね。
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あとは、合成保存料や着色料は使用していませんし、海苔や塩なども塩竃をはじめ近隣地域の食材、国産やオーガニックの素材にこだわっています。
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― 海苔も、塩竃なんですね?
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はい。浦戸の海苔は、甘みと旨味のバランスが良くて、おむすびとの相性も抜群です。
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― すべての食材を吟味したうえでつくられているわけですね。そのなかで、いちばん人気といいますか、定番中の定番、これを是非食べて欲しい、というのは何でしょうか?
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不動の一番人気はシャケです。ほかのお店では食べられない、脂がのって、柔らかく、旨味が多いシャケです。シャケというと、塩辛い味をイメージされる方もいますが、食べて頂ければ驚くと思います。
実は、私自身、これまでシャケのおむすびを買うことが無く、このシャケを見つけたことが、このお店をスタートさせる後押しとなったほどです。
実際、シャケをあまり食べない方にお勧めすると、他のシャケと違うとビックリされて、リピートもしてくれます。
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― 食べる側にとっては、気軽に食べてしまうのですが、作る方としては大変なんじゃないですか?
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そうですね。11時開店でお客様をお迎えするのですが、そこに間に合わせるためには、少なくとも7時には取り掛からないといけませんし、土日祝日など沢山の方々がいらっしゃる日は、5時半くらいには始めなければなりません。
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― 実は以前お昼すぎに買いに来たことがあったのですが、ほとんど売り切れで、必要な数をそろえるだけでした。
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ばらつきはありますが、早い日は11時30分には完売します。
土日祝日など、ある程度客足が予想出来たりする日は、売りながら2回目の仕込みをやるのですが、開店直後に来て頂いた方が、種類も数も選びやすいと思います。
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― 30分で完売とはすごいですね。正直、塩竃でここまで流行るお店を出されるのは驚いています。
実は市内の方々をはじめ、いまの場所で出店すると言ったら全員に反対されました(笑)。
国道沿いなのでクルマ通りは多いけど、人はいないから絶対にダメだよと。
でも、理由は分かりませんが、2年経っても、行列ができるのには驚いています。
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― どんな方々が買われるのでしょうか?
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最初は地元の人がお昼ご飯に買って下さると思っていたのですが、インサイトで追ってみると80%くらいが仙台の方々だということが分かりました。
意外だったのは、お土産用、贈答用としてつかって頂くことが、思いのほか多かったことです。
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― 包装のデザインもまたいいですよね。普通、おむすびを渡されたら、何だ?て思いますけど、贈り物でもおかしくないですしね。沢山の方々に愛されているおむすびですが、何か心に残るエピソードはありますか?
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沢山のおむすびを食べてきたけど、山咲のおむすびが一番おいしくて大好きだと言ってくれた常連様がいらっしゃいました。
ご主人の転勤で神奈川県へ移られたのですが、こちらに来る際には、わざわざ来店頂いたり、二周年のお祝いメッセージを送って下さったり、離れてもなお、気にかけてくれています。
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― これだけの人気店になると、店舗拡大なんかも考えていらっしゃいますか?
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それはあまり重視していません。自分の目が届かないとダメな性格なので…
でも、塩竈で製造したものを販売出来るような店舗がいづれ出来ればとは
考えております。
実は開店した頃、ある商業施設からオファーを頂いたこともあったのですが、お断りしたんです。その頃は私しか販売などの店舗業務が出来る方がいなかったですし、仮に人数がいても、掛け算のようにはならないだろうな、と思いまして。
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― 挑戦は続いていくわけですね…挑戦といえば、新しい商品も出されたとか?
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はい、シフォンケーキとプリンを販売しています。
おむすびと同じように健康志向で、グルテンフリーとして米粉を使ったシフォンケーキ、乳製品や卵アレルギーの方々でも楽しんで頂ける豆乳を使ったプリンをつくりました。
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― (プリンを試食させて頂いて)言われなかったら…いや、言われても分からない(笑)。牛乳、卵をつかったプリンと同様のテイストで、美味しいです。ちなみに、スイーツは屋号というか違う名称になるのでしょうか?
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はい、こちらは「山嵜」(やまざき)という名前で販売しています。
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― これもまた、意味やいわれがあるのでしょうか?
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嵜という文字は、岬、突端、先端という意味があるそうです。
皆さんに楽しんで頂けるような最先端のデザートを提供する、そういう気持ちを込めています。
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― おむすびも飽きが来ないように定番のものだけではなく、季節ごとの具材を増やしたり、デザートも開発されている…ほかにもまだ計画があるのでしょうか?
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塩竃の食材を使用したこのおむすびを仙台市内や遠方でも販売することで、塩竈をもっと知ってもらうきっかけになればと移動販売車の導入を検討しています。
今後、クラウドファンディングを開始させて頂きますので、またお知らせいたします。
新しいことに挑戦できるのも、毎日たくさんの方々が来て頂いていることもありますが、お店のスタッフたちのおかげでもあります。
皆、塩竃の方ですが、毎日一緒に文句ひとつ言わずお店を手伝って下さり、塩竃のことを教えてくれたり、アイディアも沢山出してくれます。
いまのお店は、お客様にもスタッフにも支えられて続けてこられました。
本当に感謝しています。
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日本全国どこにでもある「おむすび」に新しい価値観を生み出し、多くの人々に支持されている「山咲のおむすび」。
自身だけではなく、原材料を提供する生産者たちとも協力しながら、地域を盛り上げるスタイルは地方発ブランドの理想ではないだろうか。
にこやかに、ゆるやかにではあるが、どんどん新しいことへチャレンジする「おむすび山咲」は、今後も目を離せない存在だ。
店名 おむすび山咲
住所 〒985-0026 宮城県塩竈市旭町20−16
電話番号 070-8426-4171
インスタURL https://www.instagram.com/yamazaki_musubi/
Presented by: 塩釜うまいもの通信 & 竈ジン.com
執筆:竹田知広 https://worldwalkers.biz/
当誌に取材してほしい方、もしくは「この人を取材してほしい」などありましたらこちらからご連絡ください!
https://www.instagram.com/shiogama.umaimono/