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【アートの記録_0003】

名和晃平作品と初めて出会ったのは、2009年のエルメス銀座の展示だった。鹿の剥製に透明の球がびっしりついている、透き通っていてきれいで、ちょっと怖くて、でも目が離せなくなる、例の有名な作品に真っ先にくぎ付けになったけど、一番夢中になったのは、シリコンオイルを使った「PixCell_Saturation」だった。

白いプールにシャボン玉のような泡ができては、消えていく。等間隔にセットされたエアポンプからシリコンオイルに空気が送り込まれ、オイルがぷくっとふくらむ。シリコンオイルの泡は表面張力のギリギリいっぱいまで大きくなって、プチンと割れ、元の液体に戻っていく。膨らんで薄く延ばされたシリコンオイルが虹色に光る。限界まで広がるときが一番きれいで、でもそれには終わりがあって、また生まれ変わっていく。次のふくらみは、以前と同じでない。空気の入り具合でサイズも虹色も違う。しゃぼん玉より力強いけれど、やはり儚い。

消えゆく美しいものが好きなのだ。桜もビールやシャンパンの泡もしゃぼん玉も。命もきっとその仲間で、表面張力の限界は一段と輝く気がする。生まれ変わっている細胞のひとつひとつが、今日もどこかでキラッとしているんじゃないかと思うと、うれしくなるのだ。

【名和晃平】日本の現代美術家。京都造形芸術大学大学院特任教授、総合造形コース主任。ガラスビーズやプリズムシートを使って彫刻の事物としてのリアリティを問い直す作品を制作。(ウィキペディアより)http://kohei-nawa.net/exhibitions/2009

写真は2018年11月にSCAI THE BATHHOUSEで観た「Biomatrix 2018」。

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