令和の虎527人目「SMが好きな人が安心して生きられる社会を作りたい」レポート
1.動画概要:
SM愛好家、株式会社Luna代表・ひの(36)による「SMがすきな人が安心して生きられる社会を作りたい」希望金額1,000万円中、500万円でNOTHING。
・今回の虎
ドラゴン細井(AMASORA CLINIC 院長)
島やん/島田隆史(株式会社お客様みなさまおかげさま 代表取締役)
谷本吉紹(株式会社エースタイル 代表取締役)
木下博勝(さいたま新都心ジャガークリニック 理事長 鎌倉女子大学 教授)
林尚弘(株式会社癒し~ぷ 代表 株式会社FCチャンネル 代表取締役)
・司会
雫石将克(フリーアナウンサー)
2.動画考察
・志願者の経歴から見るポテンシャル
志願者はアメリカのハイスクールを卒業後、立命館アジア太平洋大学に入学。卒業後はスタートアップ企業に参画し、新卒採用コンサルタントとして勤務。二つの事業立ち上げに成功し、いずれも数億円規模の成長を実現した。
その後独立し、SNSマーケティングサイトの運営を手掛ける株式会社Lunaを設立し現在に至る。
・志願内容と、その評価
本プランは「既に運用が始まっているSM専門マッチングアプリ・LUNAのユーザー数を増やす」という内容で、希望形態は融資、希望金額は1,000万円。資金は、Lunaの広告費用にあてる。
「Luna」は、ペアーズやティンダーと同じ機能を持つマッチングアプリである。SM嗜好に特化している点が特徴で、すでに46か国で運用され、会員数は5万人に達している。
男女とも基本無料で利用可能だが、男性はより多くマッチしたい場合に有料会員となる仕組みである。月額利用料は、月額2,480円から年額15,000円までのコースがあり、有料会員は無料会員と比較して、約20倍のマッチング率を実現できる。
「Luna」のターゲットはSMの初心者や興味を持っている層で、SMに対する社会的理解を促進することを目的としているため、金額は敢えて抑えている。ユーザーの年齢層は20代が最も多く1.5万人、次いで30代が1万人。
登録時に公的身分証を必要とし、ペアーズなどと同様の審査基準を採用している。トラブルの可能性はあるが、サポート窓口の設置や警察との連携を行い、現在まで警察沙汰の事件は発生していない。
志願者は、広告費を用いず5万人の会員を獲得している。市場シェアの20~25%程度をとれているとし、広告を活用することでさらなる拡大を目指している。広告戦略は「SEO」「アフィリエイト」「メディア露出」の3軸で展開する計画。SEOではオウンドメディアを活用し、興味を持つ層を引き込む仕組みを整備。アフィリエイトではプロの、いわゆる「女王様」や専門サイトとの連携を図る。メディア露出は既にヤフーニュースや集英社などの大手出版社での掲載実績があり、これを継続する方針である。
SMに特化した直接的な競合が存在しないこともあり、SMマッチング市場を「Luna」が市場を寡占している状態にあるため、新たな競合が出現しても影響は小さいと志願者は考えている。ペアーズのような大手がマーケット規模の少ないSM市場に参入する可能性も低く、仮に参入してもSM特有のニーズを理解できない限り成功は難しいという見解を示している。
既に運営されている事業であることから、本プランの内容自体は虎からは理解された。しかし、そもそも「SMとは何か?」という点について、質疑応答が続いた。
SMに興味を持つ人々の定義は広く、学術的には参加者が非常に少ない(0.001%)とされる場合もあれば、オーストラリアの調査では4%がSMに関与しているとされる。また、既婚者や恋人がいるが、自身の性的嗜好をカミングアウトできない人々が多く、こういった人間は主に出会いや安心できる居場所を求めている傾向がある。
志願者は「SMとは、人と人との信頼関係を根本とするものであり、特定の行為に限定される定義はない」と述べ、一般的に「痛い」「苦しい」「暴力的」といった誤解があるが、本質はそれらではないとした。
次に林氏からリターンについての指摘が挙げられた。志願者の提示では、月225,000円を返済する計画であったために、出資のうま味が少ない点が懸念された。
志願者は、融資を選択した理由について、投資を受ける場合には上場やM&Aによるイグジットが必要になると考えたためと説明した。
本プランについては林氏は「事業は面白く、プロトタイプが回っている点も評価できるが、融資形式には魅力を感じない」と評価した。
・志願者の人間性
志願者がこの事業を立ち上げようと思ったきっかけは、自身がSMの嗜好を持っていること、自らの嗜好を恋人に開示する苦労を経験したこと、そして前職においてHRテック(※1)系の業務に従事する中で、SMの嗜好を持つ人々が困難に直面している姿を目の当たりにしたことで、同様に困難を抱える人々を支援したいという思いがある。
また志願者は、自身をポリアモリー(※2)でデミロマンティック(※3)と説明し、性的嗜好や多様性を尊重する姿勢を示した。SMに関しても一般的には倫理的に問題がある行動があるが、合意があれば問題ないと主張した。
ディスカッションの中で、事業への熱意や覚悟の表現が弱いと指摘されたが、志願者の話の面白さや切り返し能力は評価された。
志願者はVCにもアプローチを試みたが、上場やM&Aを行わない方針のため資金調達は実現していない。今回の志願で融資が得られなかった場合の代替案として、別会社を設立して銀行融資を受け、グループ会社として資金を「Luna」に活用する計画を持っている。
※1…HRテックとはHuman Resources Technology のことで、主に人材採用、管理、育成、評価などの人事業務を効率化するために、IT技術やデータ分析を活用したサービスやソリューションを提供する事業のこと。
※2…ポリアモリーとは、複数の人と恋愛関係を築くことを容認するライフスタイルや価値観のこと。これには、関係する全員がその状況を認識し、合意していることが前提となる。
※3…デミロマンティックとは、他者に恋愛的な感情を抱くにあたり、単なる出会いや浅い関係では恋愛感情が芽生えず、深い信頼や絆が築かれて初めて恋愛感情を感じる性的指向の一種。
・虎が出資する意義、メリット
志願者が求める融資額は大きく、融資であるため収益的なメリットが薄いことは林氏から指摘されたとおりである。
また、性的嗜好の多様性を支援するという社会的意義は考えられるものの、大手マッチングアプリで性犯罪が発生している現状を踏まえると、特にSMのような性嗜好に関連する分野では、さらに高いリスクが伴う可能性が懸念される。
3.まとめ
本プランは「SM」という独特のジャンルが虎たちの興味を引き、さらに既に収益化されている実績が評価され、500万円までの出資が提示された。しかし、リターンのメリットが薄いという理由から、満額を勝ち取ることはできず、結果はNOTHINGとなった。
特に林氏から指摘を受けた際、投資に切り替えて虎たちへのリターンを強化する提案ができれば、結果は異なっていた可能性がある。一方、志願者にとっては「令和の虎」への出演が「Luna」の広報として効果を果たしており、その点では一定の目的を達成したとも考えられる。その観点で、融資という形式で虎が応じる理由は薄かったとも言える。