令和の虎535人目「人情味溢れる飲食店を日本に残していきたい」レポート

1.動画概要

 「¥マネーの虎」で岩井氏と出会い23年間の付き合いがある個人事業主・金栄(52)による「人情味溢れる飲食店を日本に残していきたい」希望金額950万円中、950万円で完全ALL。

・今回の虎

 寺田高士(株式会社一会不動産 代表)
 宮本 聖菜(ecxia株式会社 代表取締役)
 唐沢菜々江(クラブNanae オーナーママ)
 トモハッピー(株式会社カードン 会長 株式会社ハッピー商店 社長)
 井口 智明(株式会社ディアローグホールディングス 代表取締役)

・司会

 岩井良明(株式会社MONOLITH JAPAN 代表取締役)

2.動画考察

・志願者の経歴から見るポテンシャル

 志願者は、高校卒業後、約3年間会社員やアルバイトとして働いていたが、25歳で結婚し専業主婦となった。2人の子供を育てる中で、夫の退職を機に、自らの手で家計を支えるためキムチの移動販売を決意し、2003年に「マネーの虎」に志願者として出演。岩井氏から365万円の支援を受けた。この事業は20年以上継続された。その後、2022年6月に飲食店舗「キムチとチキン」を夫とともに開業し、現在に至る。
 主宰の岩井氏とは親交が深く、2022年に放映された「令和の虎」において、別の志願者の回にも出演し、志願者の後押しを行っている。
 志願者は当初「事業再生版TF」に志願しようと考えていたが、主宰者の後藤氏から志願者が多く集まっているという理由で断られていた。その後、事業について岩井氏に相談を持ちかけたことが、今回の志願のきっかけとなった。

・志願内容と、その評価

 本プランは「現在運営している店舗を黒字化する」という内容で、希望形態は融資、希望金額は950万円。資金は、オープン時から続く赤字に対する借金の返済と、店舗の設備投資費、また運転資金に用いる。
 志願者が運営する「キムチとチキン」は、資金繰りが悪化している。具体的には、開業当初から月々の収支は返済を含めると50万円から60万円の赤字が続いている。このため、今のままだと持ち家を手放さざるを得ない状況に陥っている。
 現在では、目標である月売上200万円に対し、150万円の月売上がある。それでも月々の赤字額は月20万円となっている。しかしこの売上規模であれば、過去の赤字を返済し終えた後は、月の収支が赤字にはならない見通しがある。

 現在の店舗の問題点として、立地条件の悪さが挙げられる。店舗は東馬込に位置している。馬込駅周辺で保育園を経営しこの地域に詳しい井口氏は、車通りは多いものの商業施設やオフィスが少なく、人通りが少ないことを他の虎に説明した。また、井口氏自身も志願者の店舗を知らなかったことを挙げ、通行人に気づかれにくい場所であることを付け加えた。続いて、唐沢氏は店舗の移転について志願者の見解を聴いたが、志願者は「馬込が好き」という理由で店舗の場所を移す考えはないと明言した。
 志願者は実際に店舗で提供しているロティサリーチキンを虎の目の前で調理し、味の感想を求めた。国産の「みちのく清流どり」を使用しており、ジューシーさが特徴である。試食した虎たちからは総じて好評であった。
 売上改善について、寺田氏は「おしゃれなお昼ランチが食べられるカフェ」のような店舗から、ランチメニュー自体は売上が見込めるものの、夜間の利用を増やさなければ十分な売上を確保するのは難しいとの見解を示した。また、井口氏は馬込には夜に立ち寄れる場所が少ないことを挙げ、メニューの改善やアルコールの導入を行えば、夜集客は改善の余地があると、寺田氏に同意した。
 本プランについて岩井氏は、志願者への信頼と長年の付き合いを背景に、志願者を積極的にフォローしている。
 志願者が調理をしている間は、志願者は「¥マネーの虎」で岩井氏が投資した人物の中で成功した一人であり、岩井氏の番組内での評価を一変させる存在でもあることを虎たちに話した。志願者の奮闘とそれに対する岩井氏の感動が放送されたことで、叩かれがちだった番組内における岩井氏の評価が一変したと当時を振り返り、場をつなげた。
 また志願者が行っていたキッチンカーによる事業の成功と努力を何度も繰り返し「最後までキッチンカー事業は成功しており、キッチンカーも4台を運営していた」「現在は返済金がなければ利益が出る状態」「志願者のキムチは日本一うまい」などといった形でフォローを行っている。井口氏が「融資はただの借り換えに思える」と話した際には「個人事業であるため、番組帖のルールで融資しか受けられない」と志願者の立場を擁護した。
 はじめから主宰者と強いつながりを持つ志願者と、司会として参加していた岩井氏の積極的なフォローが目立ったため、本プランに対して全く忖度のない評価を行うことは難しかったと考えられる。

・志願者の人間性

 志願者は、地域に密着し、お客様と深い繋がりを持つ接客をしたいという考えを持っている。キッチンカー事業では20年間成功を収めたが、新たな挑戦として店舗ビジネスを開始している。また、現在の店舗を立て直した後は、47都道府県に1店舗ずつ展開し、仲間を増やして料理やキッチンカーのノウハウを広めたいという展望を掲げている。
 一方で、返済計画に金利が記載されていない点について尋ねられると「どういう形になるかわからなかったので、相談したい」と回答し、トモハッピー氏から「家を売って自己資金で存続したほうがいいのではないか」と指摘された際には「違う可能性を模索したい」と話した。これらのやり取りからは、依存的な姿勢が端々に感じられる。
 直近で売上が上昇してきた要因についても「一人ひとりのお客さんを大事にし、リピーターを増やす努力をした」と述べるにとどまり、それ以上の具体的な説明はなかった。
 さらに、ロティサリーチキンへの強い意欲がある一方で、寺田氏の「(ロティサリーチキンは)日本では、うまくいっていない」という見解についても、それに対する柔軟な対応や代替案を提示することなく、自身の嗜好に固執している。この姿勢は情熱として評価もできるが、頑固さが目立ち柔軟性に欠ける一面があると考えられる。

・虎が出資する意義、メリット

 集客に苦労する立地条件に加え、志願者が単一の商品にこだわる姿勢から、収益性の確保や資金回収の見込みが厳しいと考えられる。「家を売らざるをえない」という経済状況を踏まえると、貸し倒れのリスクも高いといえる。事業計画のみを評価すれば、虎が融資を行うメリットは見出しにくいが、主宰者が積極的に推している人物を無碍に扱うことは「令和の虎」との関係上、大きなデメリットとなる可能性がある。

3.まとめ

 本プランは事業計画が十分に練り込まれていない状態であったものの、トモハッピー氏を除く4人の虎が合計で850万円を提示した。さらに、井口氏は「融資を提示した他の3人が同意し、夜営業のために竹鶴のハイボールを仕入れる」という条件付きでお助けだるまを出した。この条件に3人が同意し、岩井氏が「ハイボールの仕入れはすぐに対応可能」と判断したことで、完全ALLが宣言された。
 今回の配信は、岩井氏への忖度が色濃く見られた。虎たちの判断理由にもそれが反映されており、聖菜氏は「岩井氏をバズらせた恩人であり、それは令和の虎に関わる自分にも恩恵のあること」と述べ、また唐沢氏は「50万円と書こうと思ったが、岩井氏の気持ちを考えて150万円と書いた」と、提示額にも岩井氏への配慮を表した。
 井口氏に至っては「近かったので」という曖昧な理由で300万円を提示しており、判断理由の明確性に欠ける点が見られた。
 このような虎の発言から、今回の決定が事業計画そのものではなく、岩井氏との関係性を重視したものであることがうかがえる。
 一方で、トモハッピー氏は「金を借りなくても、家を売らなくても、節約しながら1年8ヶ月耐えればいい。乗り越えられる」と、0円の理由を説明した。この発言は、他の虎たちとは一線を画し、忖度をしない姿勢として視聴者に映る可能性が高い。そのため、今回の配信はトモハッピー氏の評価を上げるための演出意図が含まれていた可能性も考えられる。


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