『レイコオバサン』
子どもの頃、私の祖父母の家にはたまに出入りする『レイコおばさん』がいた。
すごく前に『レイコおばさん』にこの家との関係性を聞いた事がある。
曰く「私はこの家の子ではないがおばあちゃんに育てられた」という。
詳しく聞いてみると、どうやら祖母の姉の子にあたるが祖母が親代わりとなって育てていた、という事のようだ。
「あなたのおばあちゃんは私のお母さんのようなものだから私は感謝しているのよ」
と『レイコおばさん』は言った。
『レイコおばさん』は祖父母が留守のときにも家にいて、私に家から持ってきたという手作りのおやつを振る舞ってくれたりしていた。
私は母の兄弟の他にも『おばさん』と呼んでいる人がいることに不思議な感覚を覚えつつも、この会うたびに優しく接してくれる彼女のことが嫌いではなかった。
そして時は流れ、大人になったある日。
私は法事で祖父母の家を訪れた。
法事には親戚が大集合で、普段は会わない叔父や叔母も一堂に介している。
しかしいつもなら祖母の隣にいるはずの『レイコおばさん』が見当たらない。
私は母親に尋ねた。「ねぇ、今日は『レイコおばさん』は来ないの?」
すると母親は怪訝な顔をして私に言った。
「レイコ?誰?『レイコおばさん』なんて人はいないよ。」
私は困惑しながら
「いやそんなはずはない、たまに祖父母の家にいたじゃないか、私は何度も会っている」と主張すると母はますます困惑した顔で言った。
「とにかくこの家には『レイコおばさん』なんて人はいないし『レイコ』なんて人は出入りなんかしてないよ。怖い事言わないで。」
あの優しいおばさんはなんだったんだろうか。
振る舞ってくれた手作りのパウンドケーキの存在は?
おばあちゃんをお母さんのように大事に思ってるって言ったあの笑顔は?
私は混乱する頭で考える。
するとそのとき、ガラガラッ!という音とともに玄関の引き戸が開いた。
そこには無言の『レイコおばさん』が無表情で立っていた。
それを見て祖母が言った。
「あ!リエコ!!」
「リエコおばさん」だった。
15年ぐらい間違えて覚えてた。