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ネコに空いた穴


いつもの午後

ある日の午後、わたしはいつものように仕事の合間にネコを愛でに行ったのです。

いつものように母の寝室の椅子の上で寝ていたネコは、
わたしの訪問に気づきいつものように「フアーオ」とあくびついでに挨拶をしてくれ、
「ひっかかれる覚悟があるなら撫でてみてもいいわよ」とその場でゴロンゴロンしはじめました。
なのでいつものようにわたしは覚悟を決めナデナデしていたのです。

頭を撫でられるネコ

すべてがいつも通りでした。

ふいに、ネコに空いた穴を見つけるまでは。

グッバイ日常


その穴が目に入った途端、

ドゥルルルルン、ドゥルルルルン、ドゥルルルルンルンドゥルルルルン、チャーラー
って。

さっきまであった当たり前の世界は「世にも奇妙な物語」の旋律とともに去っていきました。

その穴はネコのワキにあり、サイズは…わたしの親指ぐらいならズッポリ入りそう
というか、小銭とか持ち運ぶのにちょうど良さそう、というか…
それでいて血は出てなくて、そう、ケガというより穴なのです。
奥行きは、影になって計り知れない。
けど元気な生き物にあるはずがないような穴なのです。

ネコの穴発見時の様子のイラスト。ジョジョ風にゴゴゴとしている

え?ん?何あの穴?見間違いかな?と思い、もう1回見せてと本気でお願いしたのですが、
ネコは何を勘違いしたのか、「お、ワタシと本気で遊ぶ気ね!なら外に行こうじゃん!」とゴキゲンで外へ駆け出してしまいました。

HOLE

庭で寝転ぶネコ
夫の足元でゴロンゴロン

わたしは庭に出たネコを追いかけながら「みかん(ネコの名前)に穴が空いとる!」と騒ぎ夫と父を招集しました。

「めんどくさいなあ」という雰囲気を醸しながら付いてきた彼らでしたが、実際の穴を目撃すると
「おおおおおお、これは…!」てかんじでした。

ネコはみんなが真剣な顔でかまってくるのでうれしそうに逃げ回ったり挑発したりしていました。
その本人の平気そうさがなにより不気味でした。

穴の空いた体で楽しそうに走り回る様が
死んだのに気づいていない地縛霊みたいでまじで不気味でした。

媚びないけど人間は好き

父は獣医さんに電話してくれましたが、予約ができるのはけっこう先とのことで一旦終話。


病院にはすぐいけないし、家に捕獲するようなケージもないし、本人元気そうだし、穴発見当日、さんざん騒いだあと我々にできることはもう何もなく、途方に暮れたのでした。

穴の正体

なすすべは無くなっても、あの穴が何なのか、放っておいたらどうなるのか、気になってしょうがない。

トンビに突かれた説、サルに噛まれた説、など色々考えてみましたが、全然痛がらず出血もない点が解せません。

ネコや犬は痛みや体調の悪さを隠すと聞いたことがありますが、
彼女のあのイケイケ具合は強がりとかじゃない気がする。

それに付き合い長いからわかるけど、痛いときにムリして笑うようなそんな切ない行動をするようなタマじゃないのですあの女は。

えらそうな顔で寝るネコ

ネコ、体、穴、突然 などでググり倒した結果、ネコ同士のケンカで爪から入ったバイ菌が化膿して皮膚下で風船状に膨らみ皮膚を突き破り破裂したっていう皮下膿瘍っていうやつがそれっぽいと思いました。

消えた穴


「本人平気そうだし、しばらく病院には行かず様子をみてみよう」
という方針が決定し、
毎日「ちょっと穴見せて穴見せて」と追いかけ回してはゴロンゴロンする隙にチラチラ見せていただく日々を過ごした結果、あの大きな穴はうそのように縮小していきで2週間くらいで跡形もなく消え去りました。

あんなビッグホール、縫わないと絶対塞がるはずないやろ〜!と思っていたのに、
穴があいたこともこわければ、
急速にふさがったこともこわい。

ふだんからあんまり体を好きに触らせてくれるネコではないので、
あの日わたしがぐうぜん見つけなければ、あの穴は人知れず出現して人知れず消えていたかもしれないわけです。


……そーいうもんなのかもしれませんね。

生き物の体も、人生も、この世界も。

知らん間に大変なことになって、知らん間に解決したりしてるのかもしれませんね。

ツリーハウスの上でたそがれるネコ

あとがき


わたし最近、とある検診に引っかかった。
精密検査受けて、いま結果まってる。

早期発見はいいことなんだってわかってるけど

わたしに空いた穴をだれにも見つけないでほしいようなきもちもちょっとある。

ドゥルルルルン、ドゥルルルルン、ドゥルルルルンルンドゥルルルルン

庭を歩くネコ
のっしのっしと歩いていく

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