大企業の経験が、ベンチャー企業にどう生きるか。

 私は、NTTデータと言う国内大手のIT企業を辞め、宮城県石巻市で働いて、もう2年半になります。ある方からの「大企業の経験が、今にどう生きているの?」という非常に本質的な質問に、とっさに「決裁ロジックです!」と答えた時から、ずっとモヤモヤしていました。
 そこで「大企業*1の経験が、ベンチャー企業*2の環境でどう生きるか。」を考えてみました。あくまでも自分の体験ベースですが、大企業出身で「良かったところ」「気をつけるべきところ」「成長曲線の違い」について書きます。
 ベンチャーか大企業かで進路を悩んでいる大学生の方、大企業に勤めながら次のステップでベンチャーや新興NPOを考えている方、大企業を経てベンチャーで活躍されている方なども、ぜひご参考まで。(*1=人数が多く、比較的年功序列、起業して数十年以上、東証一部企業。*2=人数が100人以下、起業から数年、新規事業にあふれている風土の企業)

 □大企業出身で良かったところ

(1)未来から来た感覚で先を見通して動ける
 先ず、この組織が大きくなった先に、どんな事が起きるかある程度体験でわかっているという事があります。「明確なジョブディスクリプション」「それに続く階層組織化」「決裁ルール」「ある種の非合理的な社内ルール」「フリーライダーの出現」などなど、企業が成熟した状況を体験しています。
 「この組織が成長して大きくなるためには、今から人事制度をしっかりしなきゃ!」「ジョブディスクリプションを明確にしよう!」とか、比較的先を見通した動き方や、リスクに対する予防線を張れるということは有ると思います。ドラえもんで言ったら、未来を知っていて、それをより良いものに変えたいと願う「セワシくん」といった感じです。

(2)健全なプライドと広い視野を持てる
 これは、もちろん人によりますが、「東証一部のA社さんは、大きな企業さんですからすごいですね。とっても、そこまで行けませんよ!」などといった、ある種のブランド意識を持たずに目的設定して、業務を遂行できるというのは有ると思います。また、業界1位に近い企業にいれば、その業界の趨勢や将来を見通した広い視点を備えることができるかと思います。私も、研修などが充実していて、ざっくりとITがどのような影響を社会に与えるかは考える視点を持っていましたが、いきなりベンチャーITに行くと「自分のサービスをどうするか」「会社を大きくするにはどうするか」の視点になってしまう場合が多いと思います。ドラゴンボールで言ったら、悟空やトランクスに比べて、たぶんカリン様くらいの視点を持つことが出来ます。(ホントは、世界全体を見通して考える界王神くらいの視点が必要なのですが…) 

(3)必要最低限の武器は持っている
 最低限の最新のビジネススキルを持っている事は、業務遂行の推進力が違います。大きな組織でのPCスキル、メール、コミュニケーション、対面スキル、報連相、決裁ロジック、情報セキュリティ、自分の企業で行ってきた業務経験など。これらのスキルと経験があると、ベンチャー組織でのマネジメントとしては付加価値を出しやすいと感じます。新卒との大きな違いはここかもしれません。また、地方などで採用しようと思っても、大企業のような充実した研修が整備されている企業は多くなく、これらを一連の武器として持っている人はあまり多くないと感じます。(部分的に優れた能力を持っている人はたくさんいます!)進撃の巨人などの大きな敵に挑む少年兵のように、戦うための最低限の武器を持っている感覚です。

(4)チャレンジャーとしての薄い金箔がつき「信頼の土俵」に乗りやすい 
 とてもセコい人間だとアピールしてしまうのですが、「NTTを辞して、こちらに来ています」と自己紹介すると、初対面での信頼度が明確に違います。また、他人から紹介されやすい人になります。しかし、この信頼度はすごく薄いものです。行動で示さなければ、すぐにメッキが剥がれて信頼されなくなります。でも、実は大企業出身という観点で、日本で一番メリット感じるのは、ここかもしれません。土俵に乗るのは大事と考えます。

以上が感じるメリットです。逆に言うと、それ以外のスキルは、大企業出身であろうがなかろうが、関係ないということです。

□大企業の出身者が気をつけるべきところ

(1)決断にスピード感を持つ
 大企業は、よくも悪くも決裁制度がしっかりしていて、若手のうちはあまり責任をもつことが出来ません。なんでも承認ルールがあります。このため、「内部で確認しますので、来週でいいですか?」もしくは、「来月でいいですか?」が口ぐせになってしまいます。しかし、ベンチャー企業は、3ヶ月経ったら、全く別のルールで動いています。
 私の会社のあるプロジェクトも、2014年6月に0から立ちあげ、9月の3ヶ月間で7名体制になって、もう新人研修やジョブディスクリプション、次のマネジメント育成を考えるフェーズです。全てスピード感を持って進めなければ、ついていけなくなります。まさに頭文字D(イニシャル)です。

(2)プロセスの朝令暮改を恐れない
 私の会社だけではないと思いますが、ベンチャー組織は変化が大きく、大きなゴールは変わらないのだけど、常にプロセスは変わっていきます。昨日は、「A」と言っていたやり方が、状況変化により「B」となることも珍しくありません。ここは、あらゆるプロセスに様式が有り(退職届にまで!)、決裁に慣れている大企業経験者には耐えられないかもしれません。「昨日と違う!」という文句は、ゴールをコロコロ変えるリーダーに言うものであり、「プロセスを朝令暮改で変えることは是とするマインド」が大切かと思います。

(3)自分の人生を生きる
 つい、誰かの指示を待ってしまう。誰かの後ろについて行きたくなってしまう。キャリアや昇進は、誰かが決めてくれると思ってしまう。これが大企業出身者の一番の大きな敵だと思います。空軍の将校へのリクルートを振り切り「飛べない豚はただの豚だ」と言った、紅の豚のポルコロッソのように、自分の人生を送るべきだと考えます。

□成長曲線の違いについて

 大企業を経験している人と、そうでない人の「成長の違い」は、究極的には、スラムダンクの桜木花道と、ルーキーズの安仁屋の違いかなあと最近考えています。

 桜木花道は、大企業を経験していない人で活躍するタイプ。リソースは限られた中でも、自分の卓越した努力と身体能力、エリートではないけど素晴らしい仲間、そして目の前の超えるべきライバルを得て成長していきます。受難は、全てほぼ初めての体験であり、いわゆる「一本道」の右肩上がりで成長していきます。
 難点は、目先の課題にとらわれて、ゴールをイメージしにくいこと。桜木花道も、最初の段階では、インターハイは夢のまた夢です。同じように、企業が成長していった先がどのようになっているのか、イメージしにくく、提案や業務遂行の目線が低い傾向になることがこのタイプの難点だと思います。

 ルーキーズの安仁屋は、大企業の経験者で活躍できるタイプ。中学の頃に甲子園出場の目前まで行き、ある種「エリート」と呼ばれて得意になっています。しかし、思うところや挫折を経験して、自分が本当に活躍できる場所を求めて、今の場所に居ます。
 このタイプの成長曲線は、大きな組織から、小さい組織に入った時に、下がります。意識的・無意識的にしろ、過去の自分(元の会社)のやり方を押し付け、周りのメンバーが圧力を感じるように振る舞います。
 しかし、既に社会人としての「型」や、自分の組織が成長した姿がどのようであるか、挫折や悩みを経験していますから自分のほしいもの何かが比較的見えています。よって、チームのやり方に馴染んでしまえば、目先だけでない将来像を意識した業務ができ、他のメンバーより比較的早くプロジェクトリーダーやマネジメントを任せられるでしょう。いままでの自分の型を破ることができれば、どんどん成長できます。

以上

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