産業保健とは何か? 医療法人理事長が見る“健康経営”の本質
(※本記事は約2,500字程度でまとめています)
はじめに
近年、「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えました。従業員の健康管理を企業の経営的視点から考え、長期的な生産性や企業価値を高める取り組みを指します。実際に「健康経営」に取り組む企業が増え、産業保健の重要性が再認識されているのです。
私自身が産業医として企業と伴走してきた経験から言えるのは、「単に法令を遵守し、形だけ産業医を置けばいい」というものではないということ。企業が本当に求めるのは、人材戦略まで踏み込んだ上で“従業員の心身の健康と組織の生産性”を高い水準で維持する仕組みづくりです。この記事では、産業保健の基本的な考え方や健康経営が注目される背景、そして私が現場で感じている“健康経営の本質”についてご紹介します。
1. 産業保健の基本定義と企業が求める真の価値
産業保健は「法令遵守」が目的ではない
産業保健と聞くと、まず思い浮かぶのは「労働安全衛生法」などの法令です。たしかに企業は一定の従業員数を超えると産業医を選任しなければなりません。しかしながら、私がクライアント企業と向き合う中で強く感じるのは、法令を守ること自体は“最低限のライン”に過ぎないということです。
そのため私たちは、クライアント企業の特徴を理解し、人材戦略にも踏み込みながら産業保健を実践しています。従業員の健康課題や働き方の状況を把握し、経営陣と連携して組織全体の改善策を提案することこそ、産業保健の担える新たな価値であると信じています。
2. 健康経営が注目される背景
「健康経営」というガイドライン
「健康経営度調査」とは経済産業省が選定する制度であり、企業の健康経営の取り組み状況や成果を評価するものです。その中には「健康経営優良法人」「ホワイト500」「健康経営銘柄」といったグラデーションがあり、特に「健康経営銘柄」とは経済産業省と東京証券取引所が共同で選定・公表する制度で、「従業員の健康管理を経営的視点で考え、戦略的に取り組んでいる上場企業」の称号です。最近では制度の範囲が広がり、企業規模に関係なく従業員の健康づくりが企業価値に直結する時代になってきました。
実際、私が専属産業医として伴走した企業では、健康情報のDXやメンタルヘルス対策、休復職のルール作成や運用を強化し、結果的に「健康経営銘柄」を取得しました。当初「とりあえず産業医をつけなきゃ」という考えからスタートしましたが、実績を積むにつれ、積極的に社員の健康とモチベーションを高める取り組みを行う文化が醸成されました。結果、疾病による離職率が下がり、生産性が上がったという数値が明確に表れたのです。
3. 健康経営のステップ:タイトル獲得から新たな価値創出へ
まずは“タイトル”を目標に
健康経営の認定や銘柄は、企業が抱える健康課題に取り組むきっかけとして有効です。まだ始めたばかりの企業なら、「健康経営優良法人」や各種認定を1つずつ獲得することを当面の目標にする事が、社内を動かしやすく成果が見えやすいでしょう。
トップランナーの次なるステージ
一方で、すでにホワイト500や健康経営銘柄を何度も取得している“トップランナー”企業には、さらなる価値創出が求められます。たとえば、人事戦略や組織改革と結びつけた独自の健康データ分析や海外拠点での産業保健体制構築など。ここまで踏み込むと、単なる「健康経営銘柄を取りました」という枠を超え、その企業独自の競争優位を生み出す段階へ進めます。
4. 私たちが目指す産業保健のかたち
法令遵守の“その先”にこそ価値がある
私が理事長を務める医療法人では、企業とともに人材戦略を練り、“心身の健康”と“組織の生産性”を同時に高めるサポートを行っています。身体・精神の不調を予防するだけでなく、職場環境の改善やリーダー教育、保健師の独自育成など、かなり踏み込んだ提案をするケースもあります。
企業独自の健康課題を把握(アンケート、産業医面談など)
経営陣・人事部との定期ミーティングで施策を検討
企業課題から労働環境や働き方の改善案を提示(過重労働対策など)
保健師を含む専門スタッフが実務提供も含めてフォロー
こうした一連の流れを続けることで、企業の“健康経営”が実質的に進化し、結果的に「健康経営銘柄」を取得してもなお、新たなステージへと挑戦し続けられるのです。
まとめ
産業保健の本来の目的は、**法令遵守の枠を超えて「企業の生産性を高め、従業員一人ひとりが心身ともに健やかに働ける環境を作ること」**にあります。健康優良法人認定や健康経営銘柄などは、その過程で得られる指標やマイルストーンにすぎません。
クライアント企業の特徴を理解し、人材戦略まで踏み込むこと
ホワイト500や健康経営銘柄はゴールではなく、企業価値向上のきっかけ
トップランナーは新たな価値創出や海外拠点対応など次のステージへ
私たち産業医が担うのは、まさにその“人材戦略と健康管理の懸け橋”です。身体的・精神的ストレスの多い職場でも、従業員が安心して働き、生き生きと成果を出せる環境づくりが企業の競争力を支える。これこそが産業保健の“本質”ではないでしょうか。
次回予告
次回は、「どのように健康経営を進め、従業員の健康課題を可視化していくのか」。その第一歩となる「データドリブンな健康管理」をテーマにお話ししたいと思います。データが、どのように企業の生産性を変えたのか。そのリアルな過程をぜひご覧ください。
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