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海運向け産業保健サービス開始までに行なったこと Vol.3

~三井住友海上との全国セミナー開催まで~


はじめに

船員向け産業保健サービスを立ち上げる中で、三井住友海上とのコラボレーションは大きなエンジンとなりました。前回までは全国を巡るヒアリングや試験的な実務を経て、船員さんや船主さんが抱えるリアルな課題を見出した話をしました。今回は、その知見をもとに三井住友海上と全国セミナーを開催することになった話をお伝えします。


1. 見えてきた業界のリアル

1-1. 船主の厳しい立場

船主は荷主やオペレーター、そして船員の間に挟まれ、過酷な板挟み状態の状況にいます。

  • 荷主やオペレーターからコストや納期を厳しく求められる

  • 船員不足の中、乗組員を確保しつつ要望にも応える必要がある

1-2. 船員は超売り手市場

全国で約25,000人ほどしかいない船員さんは、慢性的な人手不足の追い風もあって我儘が通りやすい超売り手市場にいます。

  • 健康状態が悪くても、「退職されると困るから」と治療を強く勧められない

  • 24時間体制で運行している船を回すため、ある程度の我儘も含め要望に応える必要ある


2. 見えてきた海運に必要な医療サービス

2-1. 健診フォローと安全配慮が不十分

船員さんは港や海の上にいる時間が長く、医療へのアクセスはどうしても悪くなります。しかも**健診結果が悪くても「無理して乗船」**という状態が珍しくなく、労務不可の判断が下りにくい現状も。

  • 船主サイドでは船員を失うリスクを恐れ、治療に踏み込みにくい

  • 健診機関も「要入院」レベルでも即NGを出しにくい

こうした状況は安全配慮義務の観点からもリスクが大きく、次善の策としてオンライン診療+産業保健の仕組みを現場に落とし込む事が重要となりました。

2-2. IoT技術とオンライン診療の可能性

船員の健康リテラシーだけでなく、ITリテラシーも高いとは言えないのが実情。しかし、だからこそシンプルな手順でオンライン診療を実現し、港や船上どこでも利用できる仕組みを整えることが急務と感じました。

  • 医療法人としてオンライン診療部門を設立

  • 日本調剤株式会社と連携し、全国どの港でも薬を受け取れる配送網を構築

実際、産業保健活動と診療を同時に提供する際の利益相反を防ぐルール整備も必要でしたが、何とかクリアできました。


3. 全国セミナーでの情報発信

3-1. 三井住友海上との連携が鍵

ここで力になってくれたのが、三井住友海上の船舶営業部。彼らと協力して、全国の船主さんや関係者を集めたセミナーを開催することに。

  • 船員さんの健康実態

  • オンライン診療と産業保健を組み合わせた事例

  • IoTツールや日本調剤の全国配送網
    このようなコンテンツをまとめ、広く周知する場としてセミナーが大きな役割を果たしました。

3-2. 陸上の論理を無理に持ち込まない

セミナーでは、「陸上と同じやり方で船員を管理すればいい」という押し付ける事は絶対しないと決めていました。船の運航に支障をきたさない範囲で、少しずつ業界を変えていくという姿勢が大切だと繰り返し伝えました。現場での生々しい課題(船員の病気やメンタル不調、ハラスメント対策など)に対する具体的解決策を紹介できた事もポイントです。


4. まとめと今後の展望

  • 船員の健康問題
    極度の人手不足ゆえに、病気や体調不良を見過ごしやすい構造がある

  • オンライン診療+産業保健でフォロー
    IoTリテラシーが低くても、使いやすいシステム設計と全国配送網で課題をクリア

  • セミナーを通じて業界全体に発信
    三井住友海上と連携し、船主さんに向けて「安全配慮義務と健康管理」の重要性を伝え、徐々に改革を進める

今後は、さらに多くの船主・船員へ浸透させるための啓発活動が欠かせません。船員向け産業保健はまだ取り組んでいる人が少ない領域だからこそ、私たちが**“陸上の論理”を押し付けず、海運ならではの事情を考慮**しながら、継続的に業界をサポートしていきたいと思います。

お問い合わせ

医療法人社団 政松会

もし船員の健康管理やオンライン診療の導入を考えている方がいれば、お気軽にご相談ください。一緒に海運業界を元気にする仕組みを作っていきましょう!

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