桂伸衛門 作「マスクの女」
女「え、何?こんなとこ呼び出して。どうしたの?何?いや、ちょっと重いんだけど。え、何?告白?・・・え?マジで!?いや、ないないない。無理無理。だってそもそも私達入学してからずっとマスクじゃん。私の顔覚えてる?私、あんた微妙だわ。なんとなくしか覚えてない。いや目は出てるけどさ、私メイクばっちりしてるから、マスクとったら結構別人だと思うよ」
男「でも体育のとき」
女「いや、体育のときはとってるけど男女別じゃん。え、見てたの?いや、キモいんだけど。そういうのマジキモい。じゃあ、遠くから私の顔見て、いいなって思ったからいま告ってるってこと?いや、無理。ないわ。ごめん。てか、私好きな人いるし。いや、誰って、聞くそれ?ま、言ってもいいけど。前田くん」
男「前田もマスクしてんじゃん」
女「いや、マスクしててもわかるから、かっこいいって。それに私体育のときいつも見てるし。いや、男子が女子見るのはキモいけど、女子が男子見るのは合法だから。みんなチョー見てるよ。だけど前田くん人気だからなぁ。結構倍率高いんだよね。いや、でもあんたは無理。ごめんね、タイプじゃないから。あ、そういえばあんたよく前田くんと喋ってるけど、仲いいの?ちょっと聞いてみてくんない、どういう人好きか。あ、もういいかな?え、どうしたの?マスクとって」
男「オレとつきあってくれ」
女「いや、無理無理。いや、無理だから。てか、なんで今マスクとったの?いや、マスクとったら真剣さ伝わるとかないから。びっくりしたぁ。いや、ごめん、ホント無理だから。とりあえずマスクした方がいいよ」
男「お前もマスクとれよ」
女「は?何言ってんの?何でマスクとるの?」
男「こっちがマジで想い伝えてんだからさ、お前もマジで聞くべきだろ」
女「いや、マジで聞いてるから。マスクしてるけどちゃんとマジで聞いてるよ。マジで聞いた上で無理だから。そもそもマスクとったらマジとか意味分かんないし」
男「いいからとれよ」
女「いや、無理だから。いいから早くマスクしなよ。みんな見てるし」
男「お前がとるまでオレはつけない」
女「いや、意味分かんないから。ちょっと怖いんだけど」
用「はいはいはいはい、何を揉めているのかな、若人達よ。あ、申し遅れました。私、この通り用務員の格好をしていても、実はこの学校の理事長という学園ドラマあるあるを期待されたかもしれませんが、正真正銘、本物の用務員のおじさんです、ハイ!」
女「・・・なんだか知らないけど、ちょっと助けてくんない?」
用「はいはい、どうしましたか、女子高生」
女「なんかこの人いきなり告ってきて、マスクはずせとかわけわかんないこと言ってんの」
用「ほうほう、マスクをはずせと。それは何故かな、男子高生」
男「いや、なんか、大事なことだし、マスクとった方がマジっぽいかなって」
用「ほうほう、なるほど。それで君はマスクをとったのか・・・馬鹿者!マスクをとらんか、女子高生!」
女「え、私!?意味分かんない。なにそれ。ヤバいんだけど。何なのこのオヤジ。いや、無理だから」
用「いいからはずしなさい」
女「何言ってんの。先生呼びますよ」
用「仕方がない。まずは私がはずそう」
女「いや、なんでオヤジがはずすんだよ。いいよ、はずさなくて。てか、はずしたかったんでしょ。めっちゃ深呼吸してるし。てか、なんなのこれ。マジ終わってるこの学校。ほら、みんな見てるし。早くマスクつけなよ」
用「おじさんがこんなにからだを張ってるんだ。君も誠意を見せたらどうなんだい」
女「いや、もう意味分かんないから。え?一瞬でいいの?はいはい。じゃあ(マスクをずらす)」
用「・・・見えたかね、君?見えなかったな。もっとゆっくりずらしなさい。うん、そうそうそう、そこキープ。あー!なぜ戻す!もう一回ゆっくりおろして。そうそう、いいねいいね、もうちょっといってみようか。うん、いい〜」
女「キモいキモいキモい。てか、近いから。はい、じゃあこれでいいの(はずす)?」
用「ようやく素直になってくれたか。ほら、君、存分に見たまえ」
男「はい!・・・あれ?・・・うん?・・・あー・・・あ、やっぱいいわ」
女「は?」
男「いや、なんていうか・・・あれ?いや、まえ体育のとき遠くから見たら山本彩っぽいなって思ったんだけど、なんていうか・・・ちょっと違ったわ」
女「は!?」
男「あ、いや、山本彩っていうか、若干狩野英孝寄りっていうか」
女「は!?ちょっと何いってんの」
男「あ、ごめん、今の失言だったわ。撤回します。あ、てか、この告白も撤回します」
女「は?いや、意味分かんないし。え、どういうこと?え、私ディスられてる?なんか体育館の前に呼ばれて、いきなり告られて、マスクとらされて、挙げ句ディスられるって、どういうことこれ?」
男「あ、いや、なんかごめん」
女「いや、謝んないでくれる?余計傷つくわ。いや、マジないわ。意味分かんない。てか、オヤジいち早くマスクつけてるし。いや、ないわー。そしてなんでここに前田くん来ちゃうかなー」
前「どうした?なんかあった?」
男「おー、前田。いや、なんていうか・・・ボタンの掛け違いっていうか、他人の空似的な?あ、そういえば、こいつお前のこと好きらしいよ」
女「は!?お前何なの!?もう完全に頭イカれてるわ。あー、前田くんごめんね」
前「・・・今のマジ?」
女「あー、気にしないでホントに。まあ・・・マジなんだけど」
前「マジか。え、マジか!?いや・・・オレも」
女「・・・え?」
前「いや、オレもお前のこと前から気になってたっていうか・・・あー、好きだわ」
女「・・・え?・・・え!?ホントに?あ、いや、こんなこと聞くのどうかと思うんだけど、今ちょっとあったから聞かせてくれないかな。私のどこが好きなの?」
前「マスクが似合うところ」
女「・・・。え、ごめん、もう一回言ってくれるかな?」
前「いや、マスクが似合うところ」
女「・・・え?え、どういうこと?」
前「あ、いや、全然悪い意味じゃなくてさ。なんつーか・・・いや、ホントにマスク似合ってるなって。普通めんどいじゃん。だけど、お前はそんなかんじしなくて、結構楽しんでるっていうか、ちゃんと消化できてるみたいな。そういうのいいなって。あ、もちろんとった顔も全然かわいいよ」
女「・・・え・・・いや・・・マジかー。うわ、ヤバい。え、どうしよう。とりあえず今マスクつけるべきか、すっごい迷ってる」
前「してくれ、オレのために」
女「うん。(つける)どう?」
前「やっぱいいわ!めっちゃかわいいよ!じゃあ、改めて(マスクはずす)・・・つきあってください」
女「前田くん!・・・あ、ごめん、やっぱタイプじゃなかった」
(令和3年9月11日「みんなのらくごとおれのらくごとつづきものをやる会」にて初演)
※掲載用に加筆・修正をしております。