緋田美琴『明日もまたいつも通り 踊る、踊る。』 【嘘シャニマスエッセイ】
明日もまた、いつも通り 踊る、踊る。
緋田美琴
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<第一回>
「エッセイ集を出しませんか?」という依頼が来た。インタビューを受けることは何度もあったけど、文章で何かを表現するということは、あまり経験がない。表現は、すべてステージの上でするものだと思っていたから。
「いい機会だからやってみろ」って、プロデューサーは言ってくれた。彼は仕事を取ってくるとき、決まってそう言う。いい機会だからって珍しい仕事をもらってくるの。変わってるよね。でも、彼が無責任にそう言っているわけではないのだけはわかる。彼に勧められて受けた仕事が、やってみて間違いだったことは一度もないから。不思議なんだ。だから、今回もこうして、言葉を書き綴ることに挑戦してみようと思った。
エッセイは、連載が終わったら本にしてもらえるんだって。フォトエッセイの形式になるみたいで、最近、撮影も進めているところ。『LI(E)FE』の掲載は、マイルストーンみたいな感じなのかな。1回につき、1600文字くらい。全部で12回。小学生のころ、原稿用紙に作文を書かされたことがあったけど、1枚あたり400文字とかだったと思うから、ちょうど4枚分。当時、それを多く感じていたのか、少ないと感じていたのか、もう思い出せないくらい、まとまった文章を書く機会がなくなっちゃった。
プロデューサーに聞いたら、ドキュメント用のソフトでA4サイズのページを全部、文字で埋めたくらいなんだって。よく、現場のスタッフさんが何枚かに分けてプリントアウトした紙の資料を渡してくれることがあるけど、大変なんだなって実感した。前はそんなこと、あまり考えなかったのにな。目標を達成するために、目の前だけを見て進んで来たからかもしれない。でも、こうやって、いろんな人に支えてもらっているっていうことに気付かずにいられないくらいには、時間が経ったんだと思う。
ここまで書いてから、2日間空いた。実はこれ、紙に書いているの。理由はうまく言えないんだけど、そうしたいなって思ったから。
文章を書いていると、音楽みたいだなって思う。体の中で、ノリやグルーヴ、流れやうねりが感じられてきて、リズムに乗るみたいにしてペンが進んでいく。紙の上を、ペンで踊ってるみたいな感覚って言ったら、伝わるかな。変だよね。
もしかすると、文字を書くことはフィジカルな表現手段なのかもしれない。言葉になりきれていないものを、誰かに伝えるために、記号へ落とし込んでいく。言葉そのものが、肉体の代わりになってくれているのかもしれない。これも、今度のライブパフォーマンスに活かせないかな。なんて言ったら、にちかちゃん、びっくりするだろうな。
にちかちゃんは、『シーズ』というユニットで一緒に活動している子なんだけど、まだ高校1年生なのに、すごくしっかりしていてね。業界に入ってそんなに経ってないはずだけど、自分のことだけじゃなくて、周りをよく観察していて、自分から話しかけに行ったり、現場の雰囲気を明るくしてくれたりするの。たまに落ち込んで帰ってくるときもあって、すごく面白いんだ。面白いって言うと、語弊があるかもしれないね。とてもかわいい子だよ。感情豊かで、よく喋るし。見ていて楽しい気持ちにさせてくれる。きっとみんなも、にちかちゃんのそういうところ、好きになるんじゃないかな。パフォーマンスも、最初に比べてどんどん良くなってきてると思う。
そろそろ、この文を閉じなくちゃいけないから、書いたものを見返してみた。そしたら、エッセイなのに「私」という言葉が出てきてなかった。書き直そうとも思ったけど、初回だし、あえてそのままにしておこうかな。私はまだ、私のことも全然知らないのかもしれないって、そういう風にも思えたから。
連載が終わるまでに、私がもっと私のことを言葉で表現できるようになっていたら、良いエッセイになるのかな。そう思うと、受けてみてよかった。
ほらね。プロデューサーの持ってくる仕事って、間違いないでしょ。
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💡既刊『LI(E)FE』にて掲載中
頒布予定
11/17(日):SSF08 (在庫限りあり)
12/29(日):コミックマーケット105(在庫次第)