有栖川夏葉 × 益田絵梨花(通訳家・声優)【LIENER NOTES:対談】
─ 有栖川さんから益田さんへ対談を依頼したということですが、お二人の関係は?
有栖川:初等部時代のクラスメイトなんです!今回、対談したい相手を自由に指名してもいいとのことでしたので、人前に立つお仕事をしている人物に心当たりがないか探っていたのだけれど、ちょうど少し前に、絵梨花が来日中のアスリートへインタビューをしていたのを思い出して!日本にいるってことがわかっていたので、とても良い機会だと思ったわ!こういう機会では、会いたくてもなかなか機会が作れない相手にお願いしたほうがいいと思って、絵梨花に依頼をさせてもらったの!
益田:オファーを聞いたとき、すごく嬉しかった!夏葉ちゃんが私のことを覚えていてくれてたなんて!
有栖川:あら、覚えているに決まっているじゃない!絵梨花と同じクラスだったのは、たしか、小学3・4年生の頃だったわよね。私たちの学校では海外進出を目指している生徒が多かったのだけれど、絵梨花は当時から3ヶ国語が話せたじゃない?私も海外には興味があったから、休み時間を使って絵梨花からいろいろ教えてもらっていたんです。私にとって、絵梨花は先生でもあったのよ!
有栖川:そんな、先生だなんて(笑)。私は私で、夏葉ちゃんって昔からかっこよかったというか、すごく華がある印象があってね、才色兼備のすごい人って思っていたんだ。本当に何をやってもサマになるし、すごいなぁって思ってて。それなのに、外国語に関してだけは私に聞きに来てくれるから私も鼻が高かったんだよ!夏葉ちゃんに「すごい」って言ってもらうために語学の勉強を頑張っていた部分も結構ありました!
─ 今日は、どういったお話がしたいですか?
有栖川:当初の予定では、海外経験の多い絵梨花から昨今の世界情勢について聞こうと思っていたのだけれど、いまは、絵梨花との再会に心をときめかせてしまっているわ。それで、もっと純粋に絵梨花の近況から伺いたいのだけれど…。司会者さん、ごめんなさい。そういった話題になってもいいのかしら?
─ もちろんです!
有栖川:ありがとうございます!実のところ、私、驚いているのよね。絵梨花が通訳者になったという話は耳にしていたけれど、声優もやっているなんて思っていなかったもの。
益田:それを言ったら、夏葉ちゃんがアイドルになっているのも驚きだよ!私は夏葉ちゃんよりほんの少しだけ先に業界に入っていたみたいなんだけど、当時、周りに知り合いなんて全然いなかったのね。あるとき、私が受けたお芝居のワークショップのメンバーにアイドルさんたちがいてね。話していたら『放クラ』(『放課後クライマックスガールズ』・以下同様)の話になって、すぐに『有栖川夏葉』って名前が出てきたね。夏葉ちゃんがアイドルをやっているなんて知らなかったから、もうびっくり!それで慌てて調べたら、あの頃と全然変わってない、それどころか、さらに磨きが掛かった華々しい夏葉ちゃんが出てきてさ。感動しちゃった!同窓会のときは海外にいて来られなかったって聞いてたから、いまも世界を飛び回ってるんだと思ってた。それがまさか、近い業界にいたなんて。
有栖川:私はまだ機会がないけれど、最近だと、声優さんとアイドルが同じ舞台に立つこともあるものね。ところで、絵梨花はどうして声優になったのかしら?小学生の頃には海外進出していたし、その後はずっと海外だったのよね?いつ日本に帰ってきたのかしら?…ふふ。ごめんなさい。こうして絵梨花と再会できたことが嬉しくて。私、聞きたいことがたくさんあるの!
益田:ううん!聞いてくれて嬉しいよ!それじゃあ私の話をするね。小学5年生のとき、父の転勤に合わせてスイスに移り住んで、その後はデンマーク、ポルトガル、カナダを回ったの。それで、そのあとは両親が移住先をいくつかピックアップしてくれて、「この中だったらどこに行きたい?」って選ばせてくれたの。そのときに日本を選ばせてもらったんだ。どの国も楽しかったんだけど、幼少期を過ごしたのが日本だったから、やっぱり住むなら日本がいいなって思っててね。多言語でコミュニケーションを取るのは好きだったし、それを活かして暮らしていくなら拠点を日本に置きつつ、いろんな場所に行ける生活が理想かなぁって思ったの。それで、帰国する前にいったんアメリカへ留学して通訳者になるための学校に通い始めたんだけど、そこのコースではお芝居の科目があったんだ。言葉を表現のツールとして扱うための方法論を学ぶものだったんだけど、それがすごく楽しくて、せっかくだから続けたいなって思って。お芝居をやっていくための道はわからなかったけど、私は扱える言語が多いから、どうせなら日本でやるお芝居の中でも外国語が必要なものはないかって探してたんだ。そしたら、通訳の仕事のほうで、大きな美術展の音声ナビゲーターのお仕事をたまたまいただけてね。基本的には、他言語対応のナレーターだから話せることが重要なんだけど、そのお仕事では、ナビゲーターって言っても淡々と話すというより、お客さんに興味をもってもらうために展示物の魅力を感情いっぱいに話して欲しいっていう依頼だったから、「これ、私のしたかったお仕事だ!」って!必要な言語はもちろんどれも喋れたし、お芝居の勉強もしているからっていうことで使ってもらえたの!担当者さんから「こんなピンポイントな方がいらっしゃるとは!」って言っていただけて!
有栖川:梨花の日頃の鍛錬が身を結んだのね!
益田:それを起点に、外国語を扱う声のお仕事はよくいただけるようになったんだけど、お芝居のほうでもたまに直接お声がけいただけることが出てきてね。もっと挑戦してみたいから、通訳で業務を請けている会社とは別に、お芝居ができる事務所にも所属させてもらって声優や演劇のオーディションにも積極的に参加してるところ!
有栖川:すごい!大活躍じゃない!
益田:おかげさまで!
有栖川:この間、朝のアニメに出演していたわよね?
益田:そう!夏葉ちゃん、知ってくれてたんだ!
有栖川:私の所属しているユニットに小宮果穂っていう子がいるのだけれど、彼女が好きみたいで、一緒に事務所で観させてもらっているのよ。スタッフロールに絵梨花の名前が出てきて、すごく誇らしい気持ちだったわ!
益田:果穂ちゃんも観てくれてるんだ〜!そっかぁ。果穂ちゃん、私の声、聞いてくれてたんだなぁ。あの回だけの出演でセリフもひとつだけだったけど、二人に聞いてもらえたのは甲斐があるなぁ!
有栖川:ふふ…!とても素敵だったわ。それに、絵梨花が思い描いた理想に向かって邁進しているようで何より!
益田:いやいや!どっちかというと、遠くの理想ばっかり追っていたって感じかも?そしたら、たまたま近くに理想が見つかっただけで!ところで、夏葉ちゃんは、どうしてアイドルになったの?
有栖川:こういった場で話したことはあまりなかったのだけれど、友人からアイドルのライブに誘われて観に行ったことがきっかけなの。
益田:意外!夏葉ちゃんのことだから、何か目指す理由があってのことだと思ってた。
有栖川:正直、私も意外だったわ。もちろん、それまでもアイドルというお仕事の存在は知っていて、周りにも芸能のお仕事をしている人たちはいたし、応援もしていたけれど、私自身に関係のあることだとは思ったことがなくて。ただ、せっかく誘ってもらえたのだから最大限楽しもうと思って、当日までにいろいろ調べていくうちに興味が強くなっていて、いざライブを観たら、圧倒されてしまったというか…。ごめんなさい、まだうまく言葉にできないのだけれど、「これだ!」って思うことがあったのよ。
益田:光っちゃったんだねえ。
有栖川:光った?
益田:物語の大事なシーンで閃光がまたたくような偶然の出会いをする瞬間を、『運命の光』って呼ぶんだって。以前、ホームステイ先で教えてもらったんだけどね。夏葉ちゃんは、そのアイドルさんのライブを見て、ステージがピカっと光っちゃったんだね。
有栖川:ふふ…。そうかもしれないわね。それじゃあ、私はそれを『羽根』と呼ぼうかしら。ら。
益田:『羽根』?
有栖川:えぇ。翼を広げた鳥が、大空を羽ばたいて行くのを見上げていたら、私のところに一枚の羽根が落ちてきたの。その羽根を手に取ったら、私もあの空へ飛び立ちたくなった。そんな感じかしら。
益田:素敵な表現だね!私、通訳中に話者が心象風景を言葉にしてくれたときってすごく燃えるんだ。心象風景って、話者の頭の中だけにしかないでしょ?「これ、どうやって翻訳しようかなぁ」って。だから、いろんな国の詩集を読んで勉強してるんだけどね、今の夏葉ちゃんの言葉、すごく掻き立てられた!
有栖川:それなら、私が海外でインタビューを受けるときは、絵梨花に通訳をお願いするわね!
益田:もちろん!任せて!
有栖川:そのために、まずはトップアイドルにならなくちゃ!
益田:トップアイドルっていうのは?
有栖川:私、何かをやるからにはトップにならないと気が済まないの。「アイドルにとってトップとは何か」と問われると、正直、私もまだ明確にはわかっていないのだけれど。私が他のどんなアイドルよりも一番であり続けようとすることと、そのためならどんな努力も惜しまないことについてだけは、常にトップであり続けたいのよ。トップアイドルっていうのは、きっとその先にあるものだと思うから!
益田:トップアイドルであり続けようとする気持ちは、いつでもナンバーワンなんだね!
有栖川:ええ!たとえどんな結果になったとしても、それだけは譲れないわ!必ずなってみせるんだから!有栖川夏葉の名にかけて!
益田:でも、夏葉ちゃんって昔から何やっててもトップだった気がするなぁ(笑)。
有栖川:あら、そんなことないわよ?どちらかというと、トップになれなかったことが悔しくて、「次こそは」って思いながら勉強や走り込みをしていたことのほうが多いかもしれないわ。こういうの、負けず嫌いっていうのかしらね。それに、絵梨花だっていまのお仕事ではトップを目指しているのでしょう?
益田:それはそう…なんだけど、私は総合点でトップに食い込みたいタイプかも。
有栖川:総合点?
益田:うん!業界に入ってみて、何かに秀でている人って本当にたくさんいるんだなって思ったのね。私がやっている範囲でいえば、お芝居がすごく上手な人だったり、語学経験がすごい人の中でも、言語学に詳しい人がいたり、歌がうまくて音楽知識が豊富な人だったり。専門性が高い人がすごく多いなって。
有栖川:それは、たしかに感じるわね。
益田:そのなかで、ひとつのことに絞ってトップになろうとしても、これは私じゃ絶対に勝てっこないなって思っちゃったの。でも、周りをよく見てみたら、何かひとつのことに秀でているだけじゃなくて、いろんな知識と経験をつなぎ合わせてお仕事をしている人もたくさんいるなって気づいてね。っていうか、そういう人たちのほうが多いのかもしれない。それなら、私にできることを積み重ねていけば、いろんなところで加点がついていって、最終的な総合点であれば、何かに秀でたトップレベルの人たちと肩を並べられるんじゃないかなぁって。
有栖川:それでいうと、絵梨花はどういう方向性を目指しているのかしら?
益田:たとえば、私には通訳っていう武器がある。お芝居の業界で通訳をやっている人ってあんまりいないんだよね。それって意外なところで役に立つことがあって、私は声優をやることがあるから制作の現場も知っていて。以前、制作サイドの現場スタッフとして外国からスペシャリストを招く機会があったんだけど、当然、その現場には通訳者が必要になってくるよね。作品をつくるうえでの細かいニュアンスの話って、制作現場にいたことのある人間のほうが明らかに解像度が高いじゃない?だから、私はそういう場面では役者としてではなく、制作についての一定の理解がある通訳者として、制作側の人間として現場に携わることができる。そうすると、現場にいるトップレベルの方々と、総合点で一緒に立つことができる。それで今度は、そこで見たものがお芝居に活かせる。
有栖川:すごい…!一挙両得ね!
益田:そうそう、お得だよね。それと、通訳って仕事は言葉について勉強になるだけじゃなくて、言葉を介して人と人とを繋げるお仕事でもあるんだ。いろんなバックボーンを持った人たちと、いろんな専門領域間でコミュニケーションを円滑にしていく役割があるから、ありがたいことに本当にたくさん勉強させてもらってる!ひとつの分野に長けているほうではないけど、複数の業界をまたいでいくと、それらすべての経験は加点方式でどんどん私の財産になってくるから、そうやって、総合点を上げていければいいなって思ってる!そう考えると、私が多言語を扱えるようになりたかったのって、総合点が上がるからだったのかも?
有栖川:絵梨花は戦略家ね!これからがとても楽しみだわ!
益田:ありがとう!夏葉ちゃんがトップアイドルになったとき、私も隣で肩を並べて歩けるように頑張るね!
─ 読者のみなさまからお手紙をいただいています。『お互いの尊敬しているところを教えてください』
有栖川:仕事熱心なところね。ここまで話してくれたように、絵梨花って隙がないじゃない?興味のある分野にはどんどん手を伸ばして、自分の可能性を広げていくことに余念がないの。昔からそうだったと感じるわ。絵梨花は覚えていないかもしれないけれど、小学生の頃、私が絵梨花に聞いたのは外国語のことだけじゃなかったわね。よく覚えているのは体育の跳び箱で、あれはたしか、7段だったかしら。私が7段を跳べなかったとき、絵梨花は軽々と飛んでいたのよね。私より体が小さいのに。それで、絵梨花に跳ぶコツを聞いて、絵梨花の跳躍も観察させてもらって、おかげで跳べるようになったの。そしたらね、私がやっとの思いで7段を跳んだというのに、絵梨花ったら「今度は一緒に8段に挑戦しよう」って!そんなの、ワクワクするしかないじゃない!
益田:あったね…!私は反対に、夏葉ちゃんがすごく熱心に頑張っているのを見てたら火がついちゃって。私じゃなくて夏葉ちゃんなら跳べるかも、いっそ、私は跳べなくていいから、夏葉ちゃんが跳べるようになって欲しい!って思ってたんだ。
有栖川:そうだったの!?
益田:結局、夏葉ちゃんが8段を跳べるようになって跳び箱が終わっちゃったんだよね。尊敬するところの話でいうと、夏葉ちゃんは、やるって決めたことを最後には必ずクリアしているイメージがあります。それも、できる人に嫉妬とかせずに、達成するためなら素直に聞きにいく姿勢があって。それってすごく大事だと思うんです。私は、自分よりできる人がいると嫉妬しちゃうときがあるし、そのせいで聞きに行くことを躊躇しちゃうこともあって。
有栖川:目的を達成するためには、手段を選んでいられないもの。
益田:そういうところを本当に尊敬しています!
─ もう一通、お便りです。『二人で旅行をするなら、どこに行きますか?』
有栖川:せっかく二人とも海外経験があるのなら、お互いに行ったことがない地域へ行ってみるのもいいわね。絵梨花がまだ行ったことのないエリアってどこかしら?
益田:アジア圏かな。意外と行ってないんだよね。
有栖川:そういえば、私もあまりないわね。それと、絵梨花は在住か留学のどちらかが多いでしょう?旅行の目的で海外へ出向いたことはあまりないんじゃないかしら。
益田:たしかに!観光地をゆっくり回ったことってないかも。アジア圏、気になるなぁ。でも逆に、国内を回ってみたいんだよね。今でこそ日本在住だけど、人生の半分は海外にいたわけだから、いろいろな場所を見てみたい!
有栖川:国内なら、仕事で各地へ赴いているから私でも案内できる場所がきっとあるわ!
益田:夏葉ちゃんは旅程を立てるのが上手そうだし、夏葉ちゃんが組んでくれたプランでツアーしてみたいかも!そのときはよろしくね!
有栖川:任せて!最高の国内ツアーにしてみせるわ!