【LIENER NOTES:対談】伊崎美優 × 郁田はるき『表現って、なに?』
伊崎:本日は、私からオファーをいたしまして、郁田はるきさんと対談をさせていただけることになりました。どうぞよろしくお願いします。
郁田:はじめまして。郁田はるきです。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
伊崎:早速ですが、はるきちゃん。ズバリ「表現する」ってどんなことだと思いますか?
郁田:早速、ズバリですねぇ。うーん。自分の中にある、まだ形になっていないものを形にすること…ですかね?
伊崎:なるほどぉ!すごく綺麗にまとめてくれてありがとうございます!
郁田:そう思っていただけたならよかったです!
─ 終わってしまいそうなので、もう少し深掘りさせていただきます(笑)。伊崎さんは、現在美大に通いながらアイドルをされていると伺っています。大学ではどういったことをされているんですか?
伊崎:美大には通っているんですけど、よく勘違いされることで、私はアートをやっているわけではなくて、工業品や造形を学ぶ課程なんですね。子供のころからものづくりに興味があって、それこそ図工の授業も好きでしてたし、技術科・家庭科も好きだったんです。一方で、美術とか音楽は全然ダメで。「ものを作る」というとき、プロダクトとしての製作と、アート作品としての制作と、大きく2つに分けられるかと思いますが、アートの方面でものを作ることが、私にとっては全然わからなかったんです。後者は表現活動と呼ばれることがありますが、最終的な形が物理的に想像できないものをどうやって表現すればいいのか、私にはさっぱりわらからなかったんです。それで、絵が上手い友達や作曲をしていた子たちに話を聞いてみたんですけど、頭の中にあるモヤモヤしたものをそのまま表現すればいいって言うんですね。正直、なんじゃそりゃって感じでした(笑)。立体物を作るのも、絵や音楽を作るのも、「モノづくり」っていう意味では近いはずで、でも、表現活動となるとなぜか私にはできなくなってしまう。私には、実態のあるものしか作れないのかなって思ったらちょっと悔しくて。じゃあ、私にできる表現活動って何だろうと考えたときに、アイドルをやってみようって思ったんです。私自身には肉体があって、ということは、私には実態があるから、体を使ったパフォーマンスをやってみたいなぁと。体を使ったパフォーマンスって、体を使う以上は形から逃れられないのに、それでいて、自分の中にあるモヤモヤとしたものを表現するために形を使うことでもあるなぁと思ったので。
─ 体を使ったパフォーマンスといっても、ダンスや演劇などいろいろなものがあります。そのなかで、アイドルを選んだ理由は?
伊崎:そこは単純に、昔からアイドルに興味があったからです。ライブも何度か見に行ったことがあって。それと、タイミング良くオーディションの募集を見かけたというのが大きかったかもしれません。大学に通っているため、在学中に何かしら掴みたいなという気持ちがあって、時間が限られる以上、すぐに動き出したかったんです。
─ ありがとうございます。では、続いて郁田さんにもお伺いしていきましょう。郁田さんがアイドルになったきっかけはなんですか?
郁田:私も、伊崎さんと同じようなことを感じていて。私の中にモヤモヤっとしたものがあっても、それを表現する方法がわからなかったんです。私の場合、そのよくわからないものモヤモヤとしたものを、どうにかして絵や音楽や表現できないかなっていろいろやってみているんです。
伊崎:ということは、はるきちゃんはアート的な意味での表現活動が得意なんですか?
郁田:得意というほどではないかもしれません。絵も音楽も、私が見たいものを見られるかもしれないと思って続けてきましたが、まだまだ全然、これだって思えるほどにはなっていなくて。もしかしたら、もっと練習していかないとなぁって思いながらも、やり方が間違っているのかなって思いながら、それでも続けてきているんですね。そんなとき、たまたま私が参加したイベントの日に、プロデューサーさんと出会ってスカウトしてもらいまして。…というか、逆に私からお願いしたような形になってしまったんですけど、とにかく、縁があってアイドルにさせてもらいました。
─ アイドルへの興味は、それ以前からお持ちだったのでしょうか。
郁田:いえ。それまで、アイドルという道を考えたことはなかったんです。でも、アイドルという方法は、表現のやり方として考えたこともなかったので、それならもしかしたら、私が見たいなって思っている『私の中にあるもの』を表現できるかもしれないし、活動していった先で、私がまだ見たこともないようなものが見られる場所へと進んでいけるかもしれないって思ったんです。
伊崎:なるほど…!そういうお話が聞きたかったので、やっぱりはるきちゃんに対談をお願いしてよかったです!はるきちゃんが言っていた『私の中にあるもの』について、もう少し聞かせていただいきたいです!それは、どういったものなのでしょうか?
郁田:うーん。どんなことでもいいんですけど、たとえば、綺麗なお花を見かけたときに「綺麗だなぁ」というふうに言葉にはできるのですが、言葉にするだけだと、まだまだ見えていない部分が多い気がするんですよね。「綺麗だなぁ」って言葉の周りには、もう少し考えたら言葉になりそうなこととか、考えてもなかなかうまく言葉にできないことなんかもあったりして。私の中には、そういう、たくさんの『感じ』があって、でも、そういうものをすべて言葉で表現するのは難しいと思うんです。他にも、たとえばお花の絵を描こうとして線を引いてみても、私が見ているお花の綺麗さにはならなかったりするんです。そういうのは、きっと私が『私の中にあるお花』をちゃんと見られていないからなんじゃないかなぁって思っていて。
伊崎:はるきちゃんの中にあるものを表現してみても、言葉や線で表現しきれなかったものが残ってしまう、という感じでしょうか?
郁田:そんな感じです!それが些細なものであっても、体や心の中に何かしらかけらのように残ってしまっているなーと思ったときに、もう一回、どうにかして言葉や線で表現しようとするのも、悪い方法ではないと思うんですけど。言葉も線も、私が知っているもの、私が形だと思っているようにしか扱えないから、表現し切れないときに、やっぱり『私の中にあるもの』は外に出てこられなくて、こぼれ落ちてしまいますよね。それがすごくもどかしいなって思うんです。だから、うまく言えないんですけど、言葉や線になる前の『勘』みたいなものを、言葉や線みたいに具体的な形を持っていないままでいいから、どうにか表現することはできないかなぁって思っていて。それは、輪郭を持たない光や影のようなものとしてなら表現できることもあるんです。というより、できればそういった具体的な形を持っていないもののほうが、私は見てみたいんですね。輪郭がハッキリとしていないものって、やっぱり見たことがないもののような気がするので。もちろん、それでもやっぱり見たことのある言葉や線になってしまうこともあるんですけどね。先ほどもお話したのですが、私は音楽…というか、ベースをやっていたんです。でも、ベースでは私の思う『勘』はうまく表現できないなぁって思っていて。そういうときは、心のモヤモヤが、私の中に残ったままになってしまうんです。…えーっと、ここまでの感じって伝わっていますかね?
伊崎:うんうん!なるほどって思いました!
郁田:よかったです!それで、まだ形になれていない『私の中にあるもの』を表現する方法が、アイドルになったら見つかるかもしれないな〜って思ったんです。これまで私が試してきた表現方法とは全く違うから、それなら、知らないものが見られるかもしれないなって!ところで、逆質問になってしまうのですが、伊崎さんにはモヤモヤっとした気持ちとか、何かを表現しようとする衝動…っていうのかな。そういうものは、ありますか?
伊崎:あります!ただ、私ははるきちゃんと反対で、先に解決の具体を考えてしまうんですね。心の中にある漠然としたものを、私は「課題」って呼んでいるんですけど、自分の中でまだうまく説明しきれていない何かがあるなと感じたときには、それを「課題」として設定して、解決策を見つけるために、まずはこの世にすでに存在しているパターンや既存のフレームをいくつも当てはめていって、その中から解決策へ至るためのルートをパズルのように積み上げていくんです。そうすると最終的に、漠然としていた「課題」が、立体物みたいに具体的な形になってきくるイメージがあるんです。なので、心にモヤモヤがあったら、私はそれを解決するために、既存の形の組み合わせで再現することを試みますね。はるきちゃんにとっては、そんなふうに生の状態のものを世界へ生み出そうとしていくことが「表現する」ことなのかもしれないと感じました。それに、はるきちゃんはそうやって生まれたものが見たいんだろうなと。
郁田:あぁ〜。そうかもしれませんねぇ。
─伊崎さんは、具体的に形があるというところから、身体を通じて表現していく方法としてアイドルという方法を選びました。一方で、生田さんは表現活動をするときに、まだ形になっていないものを見つけるためにアイドルという方法を選びました。
郁田:それでいうと、アイドルとしてのパフォーマンスはどちらに寄ったものなのでしょうか?
伊崎:そこが微妙なところだなぁと思っています。アイドルのお仕事にもいろいろなものがありますが、レッスンをたくさんしたり、リハーサルを重ねて完璧にできるようにするものが多いですよね。そういう点では、理想の完成形を目指して積み上げていくものだと思うんです。さらにそこから、制作スタッフさんや舞台演出さんたちがより理想的な形に仕上げてくれて。最終的に、大きな建物のように綺麗な形をした状態を作品として世にお出しすることが多いですよね。そういうお仕事はどちらかというと「生の表現」ではないように思えるんです。一方で、ライブやイベント、番組の生放送などは、どれだけ練習しても、本番は一回きりで、建物のように仕上げの工程を踏むことはできなくて。理想の完成形として目指しているものはあっても、完成品として生み出されたものが必ずしもその理想どおりにはならない。
郁田:たしかに、『LIVE』っていうくらいですしね。
伊崎:「生の表現」ではなく造形的でもあるし、「生の表現」なこともある。アイドルのお仕事は、どちらの要素もあるものだと思います。ただそれをいうと、理想の形が決まっている造形物だって必ずしも常に完璧な形をしていないとも解釈できてしまうんですよね。たとえば、工業製品は理想の完成系が決まっていて、まったく同じものが何回でも生産できるように作られているわけですし、実際にそう見えるけど、だから「生」じゃないかって言われると、個体差があるし、それこそデザインから制作していく過程の最初のうちは「生」の体験とも考えられます。アイドル活動も同じで、収録や執筆のお仕事は、理想の形に仕上げるための工程を踏むことができますが、製作中の体験はとても「生」に近いと思うんです。現場の人たちが一緒になって、少しずつ調整していく営みは、とても有機的に思えるので。でも、いったん完成したあと、それを世界へ向けて届けるときには、その作品が「生」だったという印象は薄くなってしまいます。
郁田:それでいうと、たとえば伊崎さんが造形物を制作するとき、作品づくりとして取り組むと、完成したものは唯一無二であって、ブラッシュアップの工程があるとしても、替えが効かないという意味では「生の表現」に近い気がします。反対に、工業品のデザインのような、何回も作り直すことを前提にした造形物ってなったら、それは唯一無二のものでは困ってしまうので、「生の表現」ではなくなるのかなって思いました。
伊崎:だとすると、うーん。やっぱり、アイドルってどっちでもありそうですね…!そのお仕事が、どんな媒体に乗っているか次第なのかな?
郁田:お仕事のうち、そのアイドルらしさが作品そのものに影響してくると、その人の作品として成立してきますし「生の表現」とも言えそうです。うーん。すぐに答えは出そうにないですねぇ…。
─おふたりは、形は違えど表現することを模索するためにアイドルになるという道を選びました。これから、どんなアイドルになっていきたいですか?
伊崎:アイドルという言葉が普及する前から、それに近いお仕事はあったのかもしれませんが、現代と同じ意味でのアイドル活動が始まってからは、まだ100年も経っていないと思うんです。たぶん、テレビの登場以降なのかなと。それで、メディアのあり方も変わってきている…って、私まだ20年しか生きてないので、昔のことを見てきたみたいに偉そうに言えることではないんですけど、小学生のときの私が見ていたアイドル像と、いま私がいるアイドル業界におけるアイドルのあり方が、すでに大きく変わってきている気がしていて、というか、「アイドル」という言葉の意味が広くなってきているなと思っていて。私が昔思っていたアイドルは、大きくて、遠くにいるスター的な存在だったんですけど、最近では、小さかったとしても親しみやすい距離にいてくれるような気持ちにさせてくれるアイドルも登場してきているように感じるんですね。
郁田:たしかに。アイドルってもっと遠くの、近づくことも難しいような存在だと思っていました。すごくオーラがあって、眩しくて…!でも、いざ自分がアイドルになってみたら、他のアイドルさんたちとはお仕事の関係なのに、お友達みたいにお話したり、レッスンしたり、励ましあったり、お疲れだったりして、人と人との横のつながりがあるなぁって思います。アイドルのみなさんって、ちゃんと人間だったんだなぁ〜みたいな!
伊崎:すごくわかります!もちろん、私には到底近づくことができないと思えるくらい輝かしいアイドルさんたちもたくさんいますけど、昔みたいに、時代のシンボルだったり国民的に人気がないとアイドルでいることはできないっていうイメージとはまったく別の方法で、アイドルという職業として現実的に生きていく道がたくさんあるんだなって。そんな中で、アイドルとしてどうやって活動していこうかなって考えると、私、大道芸人さんみたいになれたらいいなって思うんです。
郁田:大道芸人さんですか?
伊崎:はい!路上でいろんなパフォーマンスをしてて、どれもすごいのに、仰々しくないというか、身近で親しみやすくて、街行く人たちに愛されちゃうような。きっと本当は、そうなるためにすごく鍛錬を積んできたはずなのに、大道芸人さんって全然そんな感じがしないじゃないですか。ニコニコ笑いながら近づいてきてくれて、袖から一輪のお花を出してプレゼントしてくれちゃうくらいの距離感を、お客さんと一緒に作っていますよね。あんなふうになれたらなって思っています。さっき言ったように、大きくて、時代の象徴のようなアイドルになるためには、本人だけではなく、周りにいるみんなで大きな装置を一生懸命動かしていきながら、アイドルとしての強固な像を作り上げていく必要があると思うんですね。あ、もちろんそれは、本人の絶え間ない努力や素質があってこそではありますが。でも、私はそういう大きなアイドルにはなれないなっていう割り切った気持ちがあるので、その代わりに、私のことを知ってくれている人、私のことを観るために会場まで足を運んでくれた方々には、お花のように小さなものでもいいから何かしらプレゼントができるアイドルになりたいんです。そのために、はるきちゃんから聞かせてもらったように、私個人の「生」っぽい部分が表現できるようにならなくちゃいけない気がしています。あらかじめ決めていたプログラムやセットリストの多くは日々の鍛錬で作り込んでいくパフォーマンスの部分なので、そこは造形品のように完璧な形を目指してブラッシュアップしていきつつも、本番ではさらに、私の「生の表現」をひとつでも上乗せしてお客さんへ渡せないかなって。
─大道芸人さんのように、パフォーマンスを作品として魅せたうえで、ささやかなプレゼントを渡して喜んでもらいたい、ということですね。
伊崎:そうですね!大道芸人さんは自分の体ひとつを小さな装置として使いながら、理想の形をした完璧なパフォーマンスを披露しているのだと思います。それなのに、その場の雰囲気やノリを読みながら、場合によっては自身でムードを変えていくことで「生」っぽい表現を作り上げているように思います。緻密に作り込まれているのに、一度たりとも同じじゃない『ライブ』として。だから私も、大きな装置を使った大きなアイドル像を作り上げられなくても、私の体という小さな装置のトルクをいっぱい踏み込んで、私なりの「生」っぽい部分を表現していくことで、お客さんを喜ばせられるようになりたいです!
郁田:なるほどぉ。伊崎さんが求めているリアクションではないかもしれませんが、すごくアーティスティックだなって思いました。
伊崎:ありがとうございます!でも、自分がしたいことの話ばっかりだったなって思います…!もっとまっすぐに「ファンのみなさんのために」って言えたらよかった。
郁田:伊崎さんの活動のベースには自己表現がありそうなので、もっと「私に着いてこいよ」というくらいで良いんじゃないでしょうか?
伊崎:そうなのかなぁ?はるきちゃんは、どういうアイドルになっていきたいですか?
郁田:私は、まずはやっぱり、伊崎さんがおっしゃっていたのと同じようにあ「応援してくれるみなさんのために頑張らないと」っていうのは大きいですかね。それから、私はアイドルになってからまだそんなに時間が経っていないのですが、周りには、小さな頃から歌やダンス、お芝居など、人前に立つ経験を積んできた方々がたくさんいるなぁということもすごく感じるので、そういった方々と同じ場所で一緒にお仕事をさせてもらう以上、私ができることを一生懸命頑張ってリスペクトを示していかないとなとも思っています!
伊崎:そうだよね…!私もそういうことを言えるようにならなくちゃ!
郁田:でも、それは先立つものと言いますか、アイドルをやるからには外せないなと思っている部分の話であって。私個人にとってのアイドルをやる理由っていうのは、また別のところにある気がします。
伊崎:ぜひ、聞かせてほしいです!
郁田:先ほどお伝えしたことと似てきてしまうのですが、私はまだ見たことがないものに対する憧れがあるんですね。活動を続けて行った先にどんな世界が待っているのかはわかりませんが、そこにあるものが見てみたいという気持ちが大きいです。それだけではなく、私がまだ見たことのないものを、私自身で表現できたらもっといいなぁとも思っています。アイドルをやるって決めたときに思ってたのは、これまでに見たこともない場所へ行けたらいいなぁということと、その場所で、私自身がまだ知らないものを、私の手で描けるようになるかもしれないということだったんですね。なんて言いましたが、まだまだ「楽しもう」っていう気持ちで取り組んでいけるほどの余裕がないだけかもしれないんですけど(笑)。ただ、知らなかったものを見られるようになったり、聞くことができるようになる日が来たらいいなって思っています。もちろん、アイドルとして駆けていった先には、もしかしたら何もないかもしれないですんですけど、それはそれで、道中が楽しかったら、それも嬉しいなぁとは思っています。それに、走った先で何もなかったなぁと思ったころに、案外、突然新しい景色が見られたりするかもしれないですし!自分本位なところで言いますと、そういうもののためにアイドルをやっているところがありますね。
伊崎:新しい景色が見つかりそうな予感はありますか?郁田:「これだ!」って思えるほどのものはまだ見つかっていないんですけど、小さなところでいうと、お散歩中にお花を見つけるみたいに、もう、日々発見の連続です!まず、事務所に所属したときに私と同じようにアイドルを目指している同じ世代の子がたくさんいるんだってことに驚きました。それでいて、みんな目指しているものや考え方が違ったりして。それから、誰かの夢を叶えるために真剣に働いている人たちがいるんだってこともすごく感じています。あとはやっぱり、ステージに立ったとき、ファンのみなさんが見せてくれる景色は何回見てもすっごく新鮮で。信じられないと言いますか、いまでも全然慣れないです。「ありがたいなぁ、幸せだなぁ」って!これは、アイドルをやっていなかったら、きっと見られなかったものなので。
伊崎:それ、わかります!本当に不思議というか、ステージに立つたびに「こんなに綺麗な景色を見せてくれてありがとう…!」ってすごく思います。ファンの方々や、支えてくださるみなさんには感謝で頭が上がらないです。
─読者の方からおたよりをいただいています。『気持ちが折れそうになるときはありますか?また、そういうときはどうしていますか?』
伊崎:よくあります!そういうとき、私は紙に書き出すようにしていますね。さっき郁田さんが言ってくれたように、気持ちって、私の中にある「まだ言葉になりきれていないもの」であることが多いと思うんですけど、そういうものに対して、仮のものでもいいから思いつくままに言葉をあてがっていくんです。そうやって書き出した言葉を組み合わせて、文章を作ります。
郁田:『理路整然』という感じがしますね!そうすると、どうなるのでしょうか?
伊崎:書き出したあとは、放置しちゃいます。
郁田:放置ですか?
伊崎:放置して、一旦その場から離れてお散歩に行ったりお風呂に入ったり、寝ちゃったりします。それで、しばらく経ってから見返すんです。そうすると、ぐちゃぐちゃに書き出したはずの文章の中から、構造が見えてくるんです!書いたときはぐちゃぐちゃで収拾がつかなったはずなのに、時間を置いたことで、それはそれで歪な形をしているだけの建物みたいに成立しているように見えてくるんです。あとはその文章から要素を分解していって、より造形として綺麗になるように組み替えると、気持ちが綺麗に整理されていきます。
郁田:すごいですね…!とても伊崎さんらしいなって思いました。要素を分解するというのは、どうやってやるのでしょうか?
を広いつつ、そこに書き殴ったものの核心が何なのかを見つけ出して、それを土台にしてリメイクしていきます。そうはいっても、綺麗な形として仕上がらないことのほうが多いんですけどね。なんですけど、最終的にはちょっと変な形をしていても、気持ちってそもそも形のあるものじゃないですから、すこし変わった建物が心の中に建っているんだなと思えると、不思議なことに嫌な気はしなくなってくるんです。
郁田:なるほど〜。ちょっと難しいですけど、霧のようにモヤモヤとして違和感のあったものが、実際には建物のように具体的な形を持ったものだとわかったら、モヤモヤではなくなってくるといった感じですか?
伊崎:そうです!そんなイメージです!
─ 郁田さんは、気持ちが折れそうなときはありますか?
郁田:もちろんありますよ〜。そういうとき、私はその気持ちに名前をつけるようにしています。
伊崎:名前ですか?
郁田:はい。伊崎さんがさっき仰っていたことと似ているかもしれないのですが、頭の中で、何だかよくわからないな〜っていう感情が湧いてきたら、その感覚を、私の中にいる小さい子のように眺めて、その子に名前をつけてあげるんですね。「モヤモヤしてるなぁ」くらいのままでいると、それがどんな気持ちなのかよくわからないので。
─どういった名前をつけるんですか?
郁田:えぇ!それは恥ずかしいですね…。たとえば、私がいま感じている気持ちが未来への不安なのかもしれないなぁって思ったら…ごめんなさい、やっぱり恥ずかしいです〜!
伊崎:私は気持ちを分解して建物として作り替えようとしていましたが、郁田さんのいうように、気持ちに名前をつけるっていうのもすごく良さそうですね!名前をつけることで、モヤモヤした気持ちを自分の中にただ居てもらえるようになるってことですよね。それって私と違って、モヤモヤした感情を、個性を持った「生」の存在として捉えているから、はるきちゃんらしいなって思いました。
郁田:いまお話ししていて気がづいたのですが、最初に私たちが言っていたことと正反対ですね〜!
伊崎:正反対ですか?
郁田:最初、伊崎さんはすでにある形を組み合わせて造形をしていくと仰っていました。だから、形にならないものを表現することが難しいと。逆に、私は形にならないものをそのまま出してみたいと言っていました。それなのに、気持ちが折れそうなときの話では、伊崎さんは気持ちの形を捉えるために、深く考えすぎることなく文字を書き出して、それを放置するんですよね。逆に、私は気持ちを捉えるために名前という形を与えてあげる。私たちは心を捉えようとするときに、それぞれ正反対のことをしているんだなぁって!
伊崎:本当だ…!はるきちゃんは言葉をあてがって形を見つけるけど、私は心の中のモヤモヤをいったんそのまま出して放置する。不思議だね〜〜!
郁田:裏腹ですねぇ。
─ 最後にもう一通、おたよりを読みますね。『将来設計について考えていることがあれば教えてください』
郁田:難しい質問ですねぇ。私はアイドルになってからまだ歴が短いですから、現実的な将来のことを考えるというよりも、今のことを考えるのに精一杯です。って、答えになっていないですが…!伊崎さんは、将来設計をされているような予感がします。
伊崎:そこまでカチッとは決めていないです…!ただ、いまの大学を志望していたころは、インダストリアルデザイナーになりたいなと漠然と思っていました。
郁田:えぇっと、インダストリアル…?
伊崎:工業デザイナーです!まだまだその気持ちはあるので、大学での勉強は続けています。でも、アイドルとしての活動もすごく楽しいので、将来についてはもう少し欲張って考えてみようとも思います。まぁ、ようするにまだ決まっていないということで(笑)。
郁田:大学って、どういった場所なのでしょうか?
伊崎:目的意識を持っていないと置いていかれてしまう場所かなって気がします。入学当初は実感がなかったんですけど、いくつか課題をこなしているうちに、自分次第でいくらでも学べるなってことに気がついて、それからはたくさん活用しています!アイドル活動はお仕事なので、もし自分が頑張らなかったとしたら活動できなくなるだけだけど、大学は、通う側がお金を払っているから、頑張らなくてもお客さんとして通えちゃうんですよね。でも、私は親にお金を払ってもらってるわけだし最大限頑張ろうって思ってます!はるきちゃんは高校2年生でしたよね?進学に興味はありますか?
郁田:学びたいことさえあれば学べる環境というのは、気になりますねぇ…。
伊崎:大学にもよるけど、図書館が大きかったり、近いことを学んでいる子とお話ができるし、とってもいい環境だと思います!あと、その道の第一人者みたいな教授が授業をしてくれるから、すごく面白いよ!
郁田:なるほどぉ。興味が湧いてきました!
伊崎:それと、今日は「表現する」ということについてお話してきたけど、はるきちゃんが言っていたように、まだ見たことがないものとか知らない世界っていうのは、実は私たちが知らなかっただけなんだなって思わされることが結構ありますね。すでにたくさんの先人たちが世界中でいろんな発見をしてきていて、そこから生み出されたものが、世の中には溢れているんだなって!そういうこと発見がたくさんできるのが、大学の良いところかもしれないです!だから、はるきちゃんは大学に進学してみるのもいいかも!
郁田:そういう道もあるのかぁ!