2020/5/3 若き医師へ 安易なヒロイズムは不要です
【2020/5/3 若き医師へ 安易なヒロイズムは不要です】
どうしても書きたいことがあって、今日は医師向けのメッセージである。
若いドクターに、ぜひ聞いてほしい。
春に大学を卒業して初期研修を始めたばかりのA先生と話す機会があった。
A先生は、学生の時から変わらない情熱と理知で、医学、医療に対する思いを語ってくれた。
絞りだすように発した最初の言葉は、自分たちの世代の医師が不幸かもしれない、ということだった。十分に研修ができていないから、と。
この言葉に、私は軽い衝撃を受けた。
うーん。不幸と言えば不幸かな。でも、今は非常時だし、仕方ない気も…
が、話を聞き進めるうちに、その衝撃はいい意味で違っていたことがわかった。しかし、それがゆえに、だからこそ逆に、何かを伝えなくてはいけなと思ったのだ。
A先生だけではなく、この世代のすべての医師に、そして医学生に。もちろん、看護師、技師、薬剤師…。全ての若き医療者と学生にも。
A先生は、新型コロナウイルスのせいで、研修先の産婦人科の患者さんが減っていること、そして、特に医師になったばかりの彼女に受け持てる患者さんは限られていて、十分に勉強ができないことを切々と話してくれた。
もどかしい。
若き職業人として燃え盛るエネルギーを持て余していた。
まぶしい。うらやましいと心底思った。
その後、新型コロナウイルス感染症医療のために研修医が何をできるのか、という話になった。A先生もその友人達も、自分たちにできることを懸命に模索しているようだった。同世代で頻繁にそういう話をする。そして、模索の結果は常に、「結局、何も役に立たないかも」ということに終始する。いくつかできることは思いつかなくないけれど、「逆に足手纏いになるかもしれない」のだ。実際、言葉は悪いけど、医療のいろはの「い」の字を学び始めたばかりで、医学知識だけは一揃え持っている彼らにできることは殆どない。中途半端な感染に関する実務技術やノウハウなしに最前線に来られても、周りが迷惑する。
医師として、そしておこがましいけど人生の先輩として、言っておきたい。
それでいいのです。
安易なヒロイズムを発揮して、徒手空拳で最前線に臨むことは決してしないでほしい。
そしてできれば後方に居て、「何も役に立たない」という、その無念さだけを噛みしめてほしいと思います。
あなた方の世代には、次代の医療を託したいのです。この瞬間に研修医で在った経験は、必ず皆さんの血となり、肉となります。
今の日々にあなた方が一つできるとすれば…。
我々先輩医師がずっと思っていたこと、つまり、「医療とは局地で行われるもので、病院の中、目の前の患者さんに向き合って行うもの以外の何物でもない」という考えは、もしかすると単なる傲慢な観察だったのかもしれない。病気も人間も見えざるリンクによってさまざまに絡み合い、世界中の国や地域が錯綜し、さらに複雑な大きな疾患概念となって手強い広がりを見せていること――。それを今この現場で見聞きしてほしい。そこから何かを学び、新しい時代の医学に確かな力を加えてほしい。
いま、現場で人が足りなくて、世界のあらゆる場所で、高齢医師や研修医、学生を駆り出す動きがある。高齢医師はいいのです。自分で判断する見識も狡猾も言い訳も持っている。対するに、若い医師たちは、そういう手練手管を潔しとしない。純な気持ちで惨状を食い入るように凝視している。現場に飛び込んで行くことにも、自身の感染への恐れや躊躇という感情は、荒削りの正義感に気おされ、一切表に出て来ない。…この国も捨てたものじゃなかったよ。ありがとう。
だけど。
この修羅場をなんとかしなくてはいけないのは、これまでの医学や医療を作ってきた世代です。あなたたちではありません。
あなたたちには、我々の未来こそを担ってもらいたい。
もう一度繰り返すけど、あなた方に安易なヒロイズムを我々は求めていません。決して中途半端な貢献をしようとしないで下さい。それよりも、もどかしい気持ちを大事にして、この日々から確かなことを学んでほしいと思う。
翻って、これを読んでくれている医療者でない皆さんへ。
若き医療者のために、医療崩壊を起こさないために、お願いします。
そう、<Stay Home>
2020/5/3 Die革命グループ主宰・医師 奥 真也