第195話. 感研究
1994年
円高が急激に進む中、車名の存続をかけて3代目「ホンダレジェンド」の開発準備が進められた。この機種の先行技術開発と並行して進む「感研究」というプロジェクトが、完了目前にあった。
人間は、どのようにして物や事柄に価値を感じるのか、「見て、乗って、走って」の全てのシーンで、気持ちがいいと感じてもらうためには、どのような「ものづくり」をすれば良いのか、という研究である。
ないないづくしのなか、3代目レジェンドの価値を高めるために、縋るような気持ちでこの研究成果に期待した。これまで追求してきた「爽快な走り」を「高級感」にまで高めようという試みである。
最後は、やはりデザインである。ターゲットユーザーと定めた「オレンジ・カウンティ」に住む「ヤングエグゼクティブ」に、「爽快」と感じてもらえる「高級感」を、「姿・形」にどのように表現できるかであった。
デザイナーたちは、それとおぼしき家庭を何軒か訪問し、その家族の人生観や趣味趣向、車に対する考え方に至るまで、熱い討論を重ねてきたと言う。そして見いだしたコンセプトのキーワードが、「カジュアル・プレステージ」ということになったようだ。それぞれの家庭が手にとるように分かる写真と共に、チームからの熱っぽい説明を受ける。
「カジュアル(ふだん着の、の意味)なプレステージなんてあるのかよ」と言うのが私の第一印象。が内心、飛び道具(新技術)を何にも与えられず、強引に「これでやってよ!」と無理を言ったのに対し、頑張ってよく企画にまで辿り着いてくれたと、チームの連中には大いに感謝していた。
デザイン開発の初期段階、4分の1のクレー(粘土)モデルができ上がったころ、アキュラ店の幹部を日本に招き、そのモデルを見てもらうことを提案する。機密の問題や、他の販売チャンネルの手前反対もあったが、「思い切ってやってみましょう」と、アメホン(アメリカンホンダ)の責任者も同意してくれた。
この頃、「初代レジェンド」に触発され誕生した日本製の高級車「レクサス」や「インフィニティ」に、やられっぱなしの「2代目レジェンド」であっただけに、彼らはこの提案を歓迎し、いろいろな意見を出してくれた。開発チームも大いに参考にさせてもらう。
まさしく、デザイナーとディーラーさんの共創である。モデルが完成した時には、ディーラーさんも自分たちの意見でつくったという気持ちも手伝って、おかげで、デザインは大好評であった。