第114話.ダブル・ウィッシュボーン・サス
1983年
プレリュードのような低全高スタイルを求め、前後のシートの位置を下げ、しかもファミリー4ドアセダンとしての居住性を確保しようとすると、当然、ホイールベースやルーフ長が伸びる。結果、ホイールベースは回転半径に、ルーフ長はシルエットに大きな影響を及ぼす。
もちろん、屋根を下げると、乗り降りの際の頭の抜きに大きく関わってくる。一つのことをやろうとすると新たな難題にぶつかり、それを乗り超えるとまた次が、という具合であった。こうしたジレンマを抱えながら、3代目「ホンダアコード」の企画検討が進められた。
次々に現れ出る難題に立ち向かう度に、積み重ねてきたパッケージづくりのノウハウや、「MM(マンマキシマム/メカミニマム)思想」で蓄積された様々なコンパクト化技術に助けられる。
乗り降りに必要な開口部を確保するため、あの手この手を考えた末、「モヒカン(ホンダH1300クーペで開発されたルーフモール)」をうまく使った4ドア用廉価型フルドア方式が考案された。
苦肉の策ではあったが、このフルドアの採用で、ボディ面とガラス面の段差が少ない「フラッシュ・サーフェイス」が可能となり、スタイルの「新しさ」を生み出すことが出来た。
企画評価会は、その明快なコンセプトとデザインの斬新さで、一発で通った。但し、「コストはこれからの努力」との指示をいただく。新しいアイデアは、ほとんどの場合コストアップに繋がる。
今回も、いろいろとやってみたが、あと数千円のところがどうにもならなかった。とうとう系列LPLと所長室から、「コストを下げ切れない要因は、ダブル・ウィッシュボーン・サスペンションにある」との判断が下され、チームは泣く泣く、コストの安いストラット・サスペンションに、急遽切り替えることになった。
その理由は、「この車のために開発されたダブル・ウィッシュボーン・サスペンションは、ファミリーカーとしての乗り心地を重視したため、構造本来の際だった走り味が薄まり、新しい価値を創出していない。また、ボンネットの高さを、たかだか30mm程度下げるためと言うだけでは、スタイリングへの寄与も少ない、したがってコストをかける意味がない」、と言うことであった。
私はこの判断に猛反対したのだが、コストを下げる代案を持たなかったこと、それに「お前ごときに、サスを決められてたまるか」との一喝で、すごすごと引き下がらざるを得なかった。
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