第219話.欧州高級研究旅行
1997年
「マルG作戦」のもと、「高級」の要素を確かめに、みんなでヨーロッパへ行ってみようと。ドイツを中心に欧州各地を廻り、「高級」なものがありそうないろいろな場所、たとえば美術館、博物館、教会、高級ブティック、コンサート・ホール、楽器製作の工房などを訪ねる計画が立てられた。
旅は清水先生にもご一緒いただき、30~60代と幅広い年代構成となる。一番の成果は、朝昼晩の食事のとき、道中、見たこと感じたことを話し合い、年代を超えて、意見の合うところ、そうでないところを確かめ合えたことであった。10日余りの感動の旅となる。
日本に戻って旅の印象を語り合った結果、結論を一言で言えば、ヨーロッパの文化と「同じ土俵」で競い合うなら我々には勝ち目はないし、追いつくことも出来ないだろうと。彼らの自動車に関わる「高級」という概念は、ヨーロッパの文化と精神に基づいているからだ。
勿論、日本の文化にも共通点はあるのだが、自動車に関する限り、欧州以外の人間が、彼らのつくりあげた概念をもとに「車づくり」をしても、所詮「物真似」にしかならない。「へたくそ」と言われるのが落ちである。
自動車が、ヨーロッパの「文化」や「精神」のもとで誕生し発展してきた以上、これらと密接に関係するのは当然である。日本人であるわれわれが、彼らと同じような価値観や人生観をもとに、つまり、同じ土俵上で「くるまづくり」をするのでは、およそ心が入らない。
やはり、日本(人)は日本(人)であり、日本的感性や情緒によって、誇り高く、自動車を料理しない限り、世界に通用するような車、ましてや「高級車」はつくれない。と言うのが、この「欧州高級研究旅行」で得た彼らの答えであった。
難しい課題ではあるとしても、突き詰めてゆけば、「高級」のもつ普遍的要素を明確に絞り込むことは可能であろう。またその要素と、日本独自の「文化」や「精神」とを結びつけることが出来れば、欧米のものとは異なる「高級車」づくりも夢ではない。そう思って、みんなで、もう一度日本の良さを勉強しようと言うことになった。
欧州高級研究旅行であったはずなのに、再び日本の方を向く結果となる。20年前の自分の姿が甦ってきた。難しいことを承知で、若い人たちによるホンダ独自の「高級研究」は続けられてゆく。そして「高級」の普遍的要素を、やがて彼らなりに、「独自性」「時間」「人の心」の三つに絞り込んで行った。