第162話.ダイエット
1991年
「本当にできるのかい?」と本田技研前社長。「頑張ります」としか言いようのない状況であった。「5代目アコード」の大きな目標である重量・コストの低減は、相当思い切った手段を必要とする。
例えばコストで言うと、新しく図面を書かない(新規部品をつくらない)とか、新規に生産設備や機械を買わないなど、開発/生産投資を半分にするくらいの覚悟が求められた。もともとホンダには、すぐに新しいことをやりたがる風土や体質がある。それゆえのコストアップもなかったとは言えない。
そんな訳で、共通部品を使うとか他の部品を流用するという意識が著しく欠けていた。しかも、「共用」によってコストダウンを計るという作業は、若いエンジニアにとっては自分の図面が描けない、つまり腕の振るいどころが無くなということだ。
自分で創造するのではなく、どこかに安くて品質、性能の良い部品を探すのが仕事になるわけで、彼らからは随分とそんな不平不満を言われた。こうした辛さを承知でコストダウン作業は動き出す。まず開発サイドの「意識革命」から始まった。
また「共用」の他に、開発の最初から、協力メーカーさんにも一緒に関わってもらう「デザイン・イン」という施策も並行して進められた。そうすることで、彼らにも我々と同様に、直接お客さんの心に飛び込んでいく意識を持ってもらうことが出来る。
こうした意識改革で、現行部品のコストを下げ同時に、性能の向上も併せて計るという大変な努力をお願いすることになった。これらは結果的に、すべてお客様の利益につながることであり、ホンダが自ら先頭に立って事を始めた。まさに「隗より始めよ」である。コストダウンの意識は重量ダウンとも連動し、大いに相乗効果を発揮することになった。
そしてこれらの成果は、5代目アコードとしてみごと結実する。重量が押さえられ、時代進化と品質が向上した上に投資は半分ですみ、コストは目標をはるかに下回った。おかげで日本では、カー・オブ・ザ・イヤー大賞をいただき、アメリカでは、お客様から大変喜ばれベストセラーカーとなる。
「ダイエット」は苦しくも楽しいもの。5代目アコードは、高い目標に向け、食事はちゃんと採り、辛いエクササイズもきちっとやり抜いて、理想のダイエットができたと思っている。嬉しいことに、それがスタイルにも表れていて、そのシェイプアップされたフォルムに健康的な色気を感じているのは、私だけだろうか。
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